研究課題/領域番号 |
23730492
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研究機関 | 仙台大学 |
研究代表者 |
リン イーシェン 仙台大学, 体育学部, 准教授 (80533025)
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キーワード | 華僑 / 華人 / ディアスポラ / ネットワーク / メディア |
研究概要 |
本研究は三年計画(平成23年~25年)である。研究目的はディアスポラである台湾系華人ネットワークにおけるメディアの位置づけと機能の変化を探ることにある。 初年度の2011年の前半には、台湾系華人ネットワークの歴史的全貌と特徴を把握するため、歴史的文献と資料収集(英語、中国語、日本語)を行い、日本植民地時代に日本本土にわたって来た台湾人のおもな軌跡を確認した。また、1945年の植民地時代の終焉とともに台湾出身者が敗戦国の「日本人」から、特別な権利を与えられた戦勝国の「中国人」となった歴史的経緯も考察し、時代的背景の把握を試みた。 2011年の後半と2012年通年は、フィールドワーク調査とインタビュー調査の手法を用いた研究調査も計画し、実施した。具体的には横浜の海外移住資料館や歴史博物館、神戸市の華僑博物館と居留地などの関連施設と関係者を訪ね、資料や史料などの関連書物を閲覧し、資料の収集をさらに徹底して実施した。また、2011年度後半からは横浜の中華街を生活拠点にした華僑を対象に、アイデンティティと言語使用の変化を中心にインタビューを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度は台湾系華人ネットワークの歴史的全貌と特徴の把握を目標としており、目標通りに達成した。その成果は、2012年6月出版の『放送番組で読み解く社会的記憶―ジャーナリズム・リテラシー教育への活用』に「華僑・華人の樹」という論文タイトルで収録されている(早稲田大学ジャーナリズム教育研究所編著、57-91頁)。具体的には、歴史文献とフィールドワークを通して見えてきた華僑・華人コミュニティの実態と、放送メディアによって表象されてきたそれとはどのような違いがあるのかを検証し、表象と実態の落差を確かめる内容であった。そこでNHKと民間放送の映像を多く所蔵する(財)放送番組センター・放送ライブラリーの協力を得て、「華僑・華人」を取り上げた約25本の番組の内容分析調査を実施した。研究の結果でいえば、これまで多くのドキュメンタリー番組を通して伝えられてきた「華僑・華人」のイメージは、異国の雰囲気が漂う中華街、旧正月に代表される伝統行事、獅子舞、中華グルメなど、文化的、観光的側面に偏っていることが明らかになった。「華僑・華人」が背負ってきた戦後日本と中国と台湾の間における複雑な歴史的経緯、国籍問題をめぐる政治的あつれき、日本主流社会との文化や言語をめぐる排除・包摂の問題などに注目したドキュメンタリー作品は僅少であり、日本主流社会が創造し、かつ受容してきた「華僑・華人」のイメージは初年度の研究調査を通して把握することができた。 24年度は横浜と神戸における華僑・華人コミュニティとネットワークの実態調査を行った。年間行事や展示、そしてインタビューを通して現地の華僑・華人とメディアとの関わりについての初歩的な把握ができた。25年度は前年度で得た資料とインタビューデータを整理し分析しながら、追加調査とインタビューを実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は、前年度のインタビューとフィールド調査を継続し、台湾系華人ネットワークにおけるメディアの成立とその言論内容の把握を中心にすすめる。おもに受け手の台湾系華人をインタビューする予定である。インタビューは質的研究として半構造化で行い、エスニック・メディアの機能を言語と文化の保存のほかに、同化と異化も含めて検証し、さらに集団内世論と集団外世論に与える影響を中心に調査する。 また、新聞、衛星放送、ラジオ、インターネットと華僑・華人社会との関わりの全貌を明らかにしつつ、第三国の華僑・華人によるメディアの実践活動も視野にいれて検討する。25年度は完成年度であるため、調査からえられた結果をまとめ、国内外の学会と学術ジャーナルに投稿し、発表を目指している。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度の研究費について、研究計画調書に記載した項目に従って計画的に執行していく予定である。以下は各項目の説明である。 ① 物品費:エスニシティ、ディアスポラ、エスニック・メディア、華僑華人、移民研究などのキーワードを含めた日本語、英語、中国語の参考文献や資料の購入、記録用音声機器の購入など関連物品に使う予定である。 ② 旅費:国内(長崎、神戸)におけるフィールド/インタビュー調査、国際学会など関連学会や研究会の旅費として使う予定である。 ③ その他:資料データベース保存用のハードディスク、関連ソフト、プリンター用インクなどの消耗品に使う予定である。
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