研究課題/領域番号 |
23730496
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
YAMAGUCHI A・E 上智大学, 外国語学部, 助教 (60453601)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 在英ブラジル人 / 在外ブラジル人 / 在日ブラジル人 / 越境ブラジル人 / トランスナショナルな移動戦略 |
研究概要 |
2011年の主な調査はブラジル人向けのエスニック・ビジネスの地理的空間を徹底的に調査した。エスニック・ビジネス空間の形成過程を見ると、その周辺には外国人が居住しているのが一般的である。またその規模の大きさが、そのコミュニティの規模を測る基準になりうると考える。つまり、エスニック・ビジネスの展開及び地理的な位置を把握すれば、エスニック・コミュニティの規模がわかった。今回の調査で収集したエスニック・ビジネスは全部で543件となっている。データ収集にあったっての条件は、(1)ブラジル人向けのビジネスであること、(2)所在地が正確に記載されていること、(3)インターネットのグーグルマップ上で所在が確認できることであった。ロンドン地区内にあったビジネスは543件となっており、ロンドン以外の地域は11件であった。ロンドンの33地区のうち、ブラジル関連のエスニック・ビジネスが所在する地区は31地区となっている。つまり、ほぼすべての地区にブラジル関連のビジネスがあり、ブラジル人が居住しているといえる。ブラジル人のエスニック・ビジネスが最も集中している地域はウェストミンスター(Westminster)であり、109件の店があった。ロンドンでは最も重要な地域であるといえる。この地域はロンドンの中心街で、ケンジントン・ガーデンズやハイト・パークに面しており、「ブラジルウォータ」が含まれている場所である。以下、多い順にブレント(Brent)地区で60件、カムデン(Camden)が47件、ランベスが40件、サザークとハリンゲーがそれぞれ34件、ハマースミスとフラムは25件、ケンジントンとチェルシー)は22件、タワーハムレッツは21件となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本調査で明らかになった点は、ロンドン市内のエスニック・ビジネスとブラジル人集住地の地理的空間、そしてブラジル人越境者のダイナミックな移動戦略である。その戦略の1つとして最も使われているのが、彼ら彼女ら自身が持っているエスニック資本である。つまり、彼ら彼女らは血統やエスニシティを利用して、正規にイギリス入国を果たしている。インタビュー調査:ブラジル人対象者は13人であった。男女の比率は男性が圧倒的に多く11人となっている。調査対象者の平均年齢は34.7歳で、学歴は比較的高く、13人中9人が大学卒であり、高卒3人、専門学校卒1人となっている。多様な就労に従事している人を対象に調査を行った。この調査において対象となったのは、サービス業6人、ハウスキーパー1人、エスニック・ビジネスのオーナー3人、支援団体所長1人、専門職2人となっている。EU諸国の市民権を取得した者がほとんどだった。その内訳は、非正規労働者1人、市民権を取得したのは、イタリアが7人、スペインが1人、ポーランドが1人、イタリアと日本の在留資格を有したのが2人、アメリカ人の配偶者を持つ者1人となっている。世界をまたにかけダイナミックに移動する彼ら彼女らは、同時に世界経済の動きに直接影響を受ける対象者でもあるといえる。しかし、そうした影響を受けながらも、また新たな移動戦略の可能性を生み出しているのである。イギリスにいるブラジル人は、「段階的な戦略移動」を行っていることも分かった。つまり、世界情勢により移動の最終的な目的地がアメリカであれ、イギリスであれ、必ず別の国を経由してからそれらの国に入国している。それを可能にしているのはポルトガルやスペインにブラジル人コミュニティが存在する点と、言語が類似している点である。
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今後の研究の推進方策 |
宗教団体を対象に調査を行う。調査対象は、移民支援団体(London Citinzens)、宗教団体(インタビュー予定の教会:カトリック教会Capelania Católica Brasileira、プロテスタント教会Cathedral of Revival Assembly of God)である。よって、当該組織とその相互関係を文献資料に基づき分析し、彼らの社会的ネットワークを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
エスニック・マイノリティと移民支援団体および宗教組織の把握をする。在日ブラジル人とは異なり、在英ブラジル人の多くは非正規労働者が大多数である。そのため、社会的適応への支援や精神的な支柱として大きな存在となっている宗教組織の役割を明らかにする。イギリスの外国人に対する市民団体の支援方法、政治的圧力等を調べることによって、今後の日本の移民政策の別の側面の分析が可能となる。
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