最終年度にあたる平成25年度は、アメリカ合衆国における「多人種コミュニティ」の実証的研究を基盤に、多人種コミュニティという視点の有効性を議論した。とくに、実証的研究としては、1950年代のロスアンジェルスにおける多人種ポリティクスの展開を、日系人と他の集団との関係性に注目しながら議論した。ここでは、とくに第二次世界大戦後の日系人社会の市民的統合の過程に注目し、その過程におけるメキシコ系政治家との連携、市民的統合過程における多人種が関与した組織実践の重要性(とくに、ロスアンジェルス市や郡が設置した人種エスニック関係を管理する委員会等での日系人と黒人、メキシコ系、ユダヤ系リーダーとの協力)を強調した。研究期間全体を通じた研究の成果は、以下のようにまとめられる。まず、ロスアンジェルスにおけるマイノリティの適応過程は、日系人と白人の二者間関係関係を前提とした「同化」概念では描くことができない。アメリカ社会への統合は、複数の人種エスニック集団との関係性を通して行われる。このような関係性を表現するものとして「多人種コミュニティ」概念を再定義した。以上のような実証研究は、20世紀における人種エスニック関係を理解するための概念構築そのものが、多人種コミュニティの存在を軽視し、二集団間関係のみに注目してきたことを如実に示す。このような概念史に対して、「多人種コミュニティ」とは、同化論だけでなく「エスニック・コミュニティ」論も共有してきた前提を問いなおし、アメリカにおけるマイノリティ・コミュニティをめぐる視角を抜本的に転換させるものであることを強調した。以上の研究成果をふまえ、平成26年からは多人種コミュニティの歴史的経験とアメリカ型多文化主義の関係を分析する新たな科研費助成研究に着手する。
|