研究課題/領域番号 |
23730505
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
丸山 里美 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (20584098)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 貧困 / ジェンダー / ホームレス |
研究概要 |
本研究の目的は、第一には、東京にある貧困者の支援団体、NPO法人「自立生活サポートセンターもやい」の2004年度から現在までの相談記録約3000件を分析し、「新しい貧困」の特徴を把握することである。第二の目的は、貧困が形成されるメカニズムについて、ジェンダーに留意した把握を行うことである。第三の目的は、以上の実態把握にもとづいて、貧困の削減に寄与する政策について検討することである。 平成23年度は「もやい」の相談記録のうち、すでに前年度に入力を終えていたものとあわせて、2006年~2010年度分約1800件のデータ入力を行った。そのデータの一部を用いて、『貧困待ったなし!』所収の「生活相談データから見えるもの」と、「もやい」HPに掲載されている「<もやい>生活相談データ分析調査」に、集計結果の報告を行った。これらの相談記録の半数以上が、野宿者やネットカフェ難民など、居住地をベースにした従来の調査の対象にならない不安定居住貧困層からのものであり、またこの類のデータには珍しく女性からの相談も1割あり、男性と女性とで異なる貧困の諸相や、最近になって深化してきた「新しい貧困」の特質をとらえる、重要な知見が得られている。 その他、内外の貧困研究者とともに、貧困をいかにとらえるかという課題で行ったシンポジウムの報告「ジェンダーとエージェンシー」や、女性のホームレスの実態や政策を概観した「ホームレスと女性」などが、今年度の研究成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は「もやい」の相談記録のうち、すでに前年度に終えていたものを含めて2004~2010年度分約2200件のデータ入力を終える予定であったが、入力作業がやや遅れており、9割程度しか完了させられていない。その原因は、当初の予定になかった相談票の改定作業に時間をとられたためだが、今後より質の高いデータをとるために必要な作業だったと認識している。 しかしこうした作業の過程で、実際に貧困者の相談に乗っているNPOのスタッフとデータ入力者、研究者の間の相互理解が深まっており、今後データの分析や望ましい政策の方向性を、現場とともに検討していくときの重要な基盤は形成されつつあると考える。 また入力済みのデータ約800件をまとめた中間報告からは、若年層と高齢層の貧困の特質の違い、および男性と女性の貧困の特質の違いをはじめ、有用な知見が得られており、本研究は当初の計画にしたがっておおむね順調に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は「もやい」の相談記録のうち、2004年~2006年度分および2011年度分の約500件のデータ入力を行う。ここまででデータ化が完了する相談記録は、2004年~2011年の7年間の約2500件になる。この7年間の間にリーマンショックにともなう世界的不況と、若年層の非正規雇用の拡大をおもな原因とする従来のにない形の貧困が深化したため、7年分のデータの経年変化を分析することで、現代的な「新しい貧困」の諸相を理解できるのではないかと期待される。 今年度は、「もやい」で貧困者の相談にあたっているスタッフ・データ入力者・研究者の三者で、データの分析・報告書を作成するための研究会をはじめる。近年の貧困政策に関する改革の動きをフォローしながら、次年度の研究の完成にむけて準備を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
データ入力作業が当初の予定の9割しか完了できなかったため、その人件費に充てる予定の研究費に未使用額が生じたが、今年度は入力者の交代にともない、より高い頻度で作業にあたれる人を雇用することで作業ペースを保ち、今年度入力分の計画とあわせて実施する。 今年度は「もやい」相談記録のうち、2004~2006年度分約200件と2011年度分残り約300件のデータ入力を行う。そのための人件費に約50万円が必要になる。また今年度より、「もやい」において本データの分析・報告にむけた研究会を開始するため、その旅費に約20万円使用する予定である。その他、関連書籍や諸経費として約10万円分、合計約80万円分の研究費を使用する。
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