研究課題/領域番号 |
23730507
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
山口 誠 関西大学, 社会学部, 教授 (80351493)
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キーワード | マス・ツーリズム / メディア / グアム / 観光行動 / 大衆文化 / ガイドブック / 映画 / 再帰性 |
研究概要 |
日本型マス・ツーリズムの生成過程におけるメディアの社会的機能を分析するため、本研究では前年度に引き続き、(1)基礎理論の構築、(2)フィールドワークを中心とする事例分析、(3)文献資料の収集と中心とする歴史分析、の3点について取り組んだ。 上記のうち(1)については①Urry, J.らのモビリティに関する一連の先行研究、②Giddens, A.らの再帰性(reflexivity)に関する理論社会学の先行研究に着目し、両者の知見を日本のマス・ツーリズムの研究に応用する方途を検討することができ、その成果の一部を観光学術学会での研究発表や共著で発表することができた。 (2)と(3)については、本研究の代表者が10年ほどフィールドワークを続けている米領グアム島における日本人観光において実行した。また米領グアム島への「海外観光」と補完する関係として分析する「国内観光」の事例のために、日本国内における新たなフィールドの選定に努めた結果、柴又(東京都葛飾区)におけるメディア・ツーリズムの生成過程を分析する作業に着手することができた。 以上より申請2年目の成果として、「海外観光」と「国内観光」の二つの事例に照準を当て、フィールドワークと歴史分析によって日本型マス・ツーリズムの生成過程を明らかにし、そこにモビリティと再帰性の変容を読み取る、という研究目標の明確化が実現できた。今後は学会での研究発表、研究書や論文の公刊、および研究会での学術交流などにより、他の研究者と知見を共有し、さらなる研究の深化に努める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度から着手している「国内観光」のフィールドの選定に取り組むため、本年度は日本国内におけるメディア・ツーリズムの現象が長期間にわたって生じた場所へ赴き、フィールドワークを重ねた。本年度の用務地として、観光ガイドブック「ミシュラン」によって脚光を浴びた高尾山(東京都八王子市)、映画「となりのトトロ」で森林保存運動が起こった所沢市(埼玉県)、映画「男はつらいよ」以降のメディア・ツーリズム施策が盛んな柴又(東京都葛飾区)などを選定し訪問した。 その結果、柴又とその周辺では、東京都葛飾区による公的な観光政策も作用し、メディア・コンテンツを活用した新たな観光現象が複数生じていることが明らかになった。とくに映画「男はつらいよ」シリーズが終了した1990年代後半から、葛飾区ではマンガやアニメのキャラクターを活用した観光施策が活発化しており、同区の図書館や区役所には数多くの関連資料が保存されていることが分かった。そのため柴又を中心とする葛飾区に着目することで、本年度の計画目標のうち、最も重要だった「国内観光」の事例の選定を実現することができた。なお葛飾区役所には資料の提供や聞き取り調査への協力を依頼し、今後の研究を進めていく準備に着手している。 上記に加え、メディア・ツーリズムの基礎理論を検討する作業として、モビリティと再帰性(reflexivity)に関する海外の文献を読み進め、それらを日本の事例に応用するための検討を、複数の研究会などでの研究発表で試みた。この作業は今後も継続するとともに、観光学術学会のジャーナルへの寄稿によって中間的な成果を発表し、他の研究者からの助言を求める段階に達している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで2年間に取り組んだ研究を深化させるため、本年度は(1)基礎理論の検討と構築に着手し、とくに学会のジャーナル寄稿や研究発表などで中間的な研究成果を発表し、他の研究者の助言を求めること、(2)新たなフィールドとして選定した柴又を中心とする葛飾区(東京都)への実地踏査を集中的に行い、継続して調査する米領グアム島との比較分析に努めること、の2点を実現することを目指す。 (1)については国内外の先行研究をさらに体系的に入手し、とくに英語圏の観光理論研究における最新の学術論文を集めて読解することに努める。現在参加している複数の研究会では本年度中に数度の研究発表の機会を与えられているため、そこで基礎理論のフレームを発表して出席者の助言を得ることを計画している。 (2)については柴又を中心とする葛飾区において文献資料の収集を優先させ、同地における1960年代以降の観光現象に関して整理する作業に取り組む。1960年代から現在までの半世紀において、各時代の「海外観光」と「国内観光」の連動関係(あるいは非連動の関係)に着目し、日本型マス・ツーリズムの生成過程におけるメディアの機能について考察し、今後の研究において核となる仮説の設定に努める計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の推進方策を実現するため、まず国内外の関連文献を入手すること、柴又を中心とする葛飾区への出張を複数回計画している。また葛飾区におけるメディア・ツーリズムの事例を分析するため、映画「男はつらいよ」やマンガ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」やマンガ「キャプテン翼」などを代表とする葛飾区の観光施策と関連するメディア・コンテンツの入手と内容分析に着手する予定である。 さらに2年間継続してきた米領グアム島におけるフィールドワークを継続し、とくに葛飾区に着目した「国内観光」との対比のため、1960年代から90年代における日本人観光に着目した聞き取り調査と資料収集に尽力する。 そして「海外観光」と「国内観光」の連動関係を考察するため、国立国会図書館でガイドブックや観光に関する統計資料、地図などを閲覧・複写するとともに、とくに1960年代から1990年代における観光産業に詳しい関係者(ガイドブック制作者、旅行会社社員など)への聞き取り調査を計画している。 このため本年度には(1)観光現象と関わる映画や漫画などのメディア・コンテンツを重点的に収集し内容分析するための資料費が多くなること、(2)東京都葛飾区を中心とする国内出張が多くなることが計画されるため、効率的な実行に努め、その成果を速やかに研究論文や研究書などの実績につなげられるよう尽力する。
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