研究課題/領域番号 |
23730508
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研究機関 | 桃山学院大学 |
研究代表者 |
大倉 季久 桃山学院大学, 社会学部, 講師 (90554147)
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キーワード | 森林問題 / 木材市場 / 経済社会学 / 埋め込み / 日独比較 / ローカル・マーケット / ジャガーノート・マーケット |
研究概要 |
本研究の目的は、経済社会学の視点を手がかりとしながら、林業経営、森林管理、そして木材市場の日独比較を通して、現代日本における森林荒廃のメカニズムの特質を明らかにするとともに、持続可能な森林管理にむけた条件を探ることにある。比較研究というととりわけ相違点が強調され、それを糸口として研究が進められるが、前年度、および本年度前半の検討から明らかになったのはむしろ日本の森林管理とドイツの森林管理が直面している問題の共通性であった。両国とも、製材工場を中心とする木材の生産・供給の急激な大規模化、効率化が進展し、その是非をめぐって論争が起こっている点では共通しており、また森林の所有構造をみても、小規模な所有者が多くを占めている点で共通している。これらの点で森林管理を取り巻いている条件は大きく変わりがない。にもかかわらずドイツの森林管理が先進的だといえるとすれば、何がそれを支えているのか。このような新たな問いかけを手がかりとして、今年度は、日本とドイツにおける森林管理の担い手組織や木材供給グループの特徴について、歴史研究、文献研究を中心として研究を実施し、研究成果を報告するとともに(日本公益学会と日本社会学会大会にて報告、および共著書の一部として刊行)、その結果をもとにしてドイツの現地調査を実施した。とりわけ20世紀以降の日本における森林管理をめぐる組織や団体が林野庁による補助と指導に支えられながら形づくられてきた歴史と、Vereinやe.V.(eingetragener Verein)として森林所有者や製材業者の組織・団体が絶えず当事者間で自発的に形成されてきたドイツの森林管理の歴史との差異に注目して、日本における森林荒廃の現状とその構造的メカニズムに関する分析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献研究とフィールドワークを中心とする本年度までの研究を通して明らかになったのは、今日において、日本だけでなくドイツにおいても木材の生産・供給、そして森林管理に関する組織化や、団体の創設がますます困難になりつつある現状である。グローバルに木材市場が統合され、取引単位が大規模化し続ける中で、大規模所有者どうしで結びついて市場の変化に対応しようとする動きが広がる一方で、所有規模が小規模であればあるほど森林所有者の組織化は難しく、また経営条件がよりいっそう不利な状況に置かれるようになっている。今日の森林管理をめぐっては、このような森林の所有構造と市場規模とのあいだの矛盾が各地で浮かび上がっている。森林の放置や過剰伐採を食い止め、また森林管理を持続可能なものにしていくためには、この矛盾をどのように解消するかが今後の森林管理にとって重要な焦点になっていることが本年度の研究からは明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
以上のような研究の現状をふまえて、引き続き日独比較研究を進めるにあたって、とりわけ小規模森林所有者の動向に焦点を据えて研究を進めたいと考えている。とくに1,000ヘクタールを超える規模で森林を所有し、専業で林業経営に従事する森林所有者が存在する一方で、所有規模が1ヘクタール未満で、統計上把握されることがないような、経営規模としてはきわめて小規模な森林所有者が散在している日独に共通の実態をふまえて、ローカルな市場が縮小し、グローバルな市場の統合が進行するなかでの木材市場と所有構造との間の矛盾に対して「埋め込み」概念を中心に据えた経済社会学の視角から接近することを試みたい。その中心となるのは、各地で展開する小規模な所有者を木材市場に橋渡しする取り組みに注目して、小規模所有者と木材市場のあいだにどのような社会関係の構造が新たに創出されたり、あるいは変化していくのかを明らかにしていくことで、こうした要因が森林管理をどのように方向づけているのかを分析することにある。森林管理の危機的状況を背景にして立ち上がる新たな売買のネットワークに着目して、今日の木材市場の特質を検討しつつ、この問題の構造的な背景について考察していきたい。そして、このような一連の作業を通して、今日の日本における森林問題の発生・拡大の構造的背景を捉えなおすとともに、これを出発点として、現代社会における市場メカニズムの特質を社会学的な視点から分析する新たな視座を切り開く作業に踏み出していきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
今回申請している研究経費のなかで、もっとも多くの部分を占めている旅費、交通費について、本年度は国外旅費として、昨年度から引き続き、ドイツ林業(バーデン=ヴュルテンベルク州、「黒い森」近郊にて実施)に関する調査を計画している。国内林業の調査については、兵庫県における林業関係者に対する調査は、おおむね日帰りでの調査を計画しており、徳島を中心とする四国地方での林業関係者に対する調査では、研究期間全体で、計10日程度調査を予定し、費用を算出している。その他の必要経費については、とくに調査の事前、あるいは事後において購入が必要となる資料についてと、学会出張、および研究結果の公表に際して必要となる印刷の費用を算出している。
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