研究課題/領域番号 |
23730512
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
立石 裕二 関西学院大学, 社会学部, 助教 (00546765)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 地球温暖化問題 / 環境社会学 / 科学技術社会学 / テクノクラシー / 市民参加 / ライフサイクルアセスメント(LCA) / 古紙リサイクル / エネルギー |
研究概要 |
本年度は4つのアプローチで研究を進めた。 1.地球温暖化問題に関する基本情報の収集・整理。関連する文献資料の収集とインターネットでの情報収集をおこなった。とくに、1990年代初頭から京都議定書が発効した2005年頃までの期間、温暖化が地球規模の環境問題の一つから、環境対策の大半を占めるに至るまでの変化過程について重点的に資料を集めた。 2.テクノクラシー的構造とそれに対する批判に関する理論的検討。行政や専門家が政策方針を決め、それが上意下達式に適用される「テクノクラシー的構造」に注目し、その問題点と改革の方向性について検討した。テクノクラシー的構造を改め、公衆の見方や価値観を意思決定に反映させるための制度的枠組みとしては、法的規制、合意形成、調査研究、共同管理という4つのアプローチがあるが、それぞれに利害得失があることを明らかにした。 3.地球温暖化問題の登場が紙の環境対策に与えた影響に関する分析。紙の環境対策(製紙業界の取り組みや古紙リサイクル、消費量削減の取り組み、森林保護・植林など)を事例として、地球温暖化問題の論理は環境対策をいかに変容させてきたのか、それは環境問題の解決にとってどういう正/負の意味をもつのかを検討した。とくに、資源採取から廃棄に至る過程の環境負荷を数値化して比較するLCA(ライフサイクルアセスメント)に注目し、この手法の成立した背景やその社会的影響について分析した。 4.エネルギー問題と地球温暖化問題の関係に関する分析。両問題を分ける分水嶺となるのは、石炭の位置づけである。1990年代に入り温暖化対策が叫ばれる中で、日本がそれに真っ向から反する石炭発電を推進したのはなぜか。石炭へのエネルギー転換に注目して、1980~90年代における日本のエネルギー政策に関する資料を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.~4.のいずれも、おおむね計画どおりに研究が進んでいる。 1.地球温暖化に関する基本的な情報の収集・整理は、当初の計画どおり進めることができた。 2011年度には、2.テクノクラシー的構造に関する理論的検討を重点的に進め、ある程度の成果を得ることができた。多かれ少なかれ専門家が力をもつことは避けられない状況下で、いかに実質的な市民参加を確保するのかについて、B・ウィンの論文を素材として検討し、その成果を発表することができた。ほかの研究成果は、現在投稿中である。 2011年度には、3.地球温暖化問題の登場が環境対策(古紙リサイクル)に与えた影響に関する分析も重点的に進めた。基本的な文献資料を収集するともに、製紙会社へのインタビューと資料収集をおこなった。年度中に学会発表をおこなう予定だったが、スケジュール等の事情からできなかった。研究自体は順調に進んでおり、「再生紙は環境に良くないのか?──地球温暖化の論理と環境問題の変容」というタイトルで2012年5月の学会発表を申し込み中である。 4.石炭と温暖化については、これまでに収集した資料の分析を通じて、さらに重点的に集めるべき資料を特定している段階である。当初の計画どおり、2012年度から分析を本格化させる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.地球温暖化問題に関する基本情報の収集・整理に関しては、国内分は順調に進んでいる。海外に関しては資料の量が膨大なので、今後はA)紙や石炭に関わるもの、B)日本の環境対策に対する海外からの評価に関わるもの、C)社会学・人類学的アプローチやテクノクラシーに関わるもの、に重点化して収集と分析を進める予定である。 2.テクノクラシー的構造とそれに対する批判に関しては、理論的な検討を継続する予定である。狭義のテクノクラシーだけでなく、関連する動きとして「監査社会」化にも注目する。これは、組織の内部でルールに基づく統制を進める官僚制とは異なり、外部からの監査によって組織を統制しようとする新しい傾向である。今日の地球温暖化対策は監査社会の特徴を色濃く反映した枠組みになっている。そのことが温暖化対策の決定過程、そこへの各アクターの参加/排除とどのように関連しているのか検討する。 3.紙と温暖化に関しては、LCAが成立した背景とその社会的影響に注目し、「専門家による環境対策の独占」「環境問題の一元化・均質化」「ローカルな問題の捨象・脱文脈化」といった論点について分析を進める。これまでの研究成果をもとに学会発表をおこない、そのフィードバックをもとにさらに研究を進め、今年度中に学術論文としてまとめて投稿する予定である。 4.石炭と温暖化に関しても分析を進め、2012年度の秋~冬には学会発表をおこなう予定である。これまで集めてきた資料をもとに、日本のエネルギー政策が決定される過程とその問題点について分析する。エネルギー問題は伝統的に専門家が意思決定を独占してきたが、こうした構造は地球温暖化という新しい観点が入ることで、どのように変化したのか。あるいは、変化しなかったのか。それはなぜか。こうした点に注目して分析を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は「紙と温暖化」に関わるアクターを中心にして、3~4件程度のインタビュー調査を実施する予定である。また、学会発表を2件以上おこなう予定であり、そのための旅費が必要となる。インタビュー時などに利用するノートパソコンの費用も必要となる。 地球温暖化問題に関する資料収集を継続中であり、次年度は紙(古紙リサイクル、製紙に伴う森林伐採などを含む)に関する資料や石炭エネルギーに関する資料を重点的に収集する。温暖化への取り組みの歴史的変遷に注目し、1990年代前半に発行された書籍等もできるだけ収集を進めるため、そのための費用が必要となる。
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