環境問題の政策決定における「テクノクラシー的構造」とは、行政と一部の専門家が政策を決める上流部分とそれを実行に移す下流部分が分離し、下流から上流へのフィードバック回路がない状態をさす。こうしたテクノクラシー的構造について、本研究では大きく2つのアプローチから研究を進めた。 1.古紙リサイクルの環境負荷をめぐる議論における専門家・専門知の役割に関する分析。地球温暖化対策をめぐる議論は、ライフサイクルアセスメント(LCA)のような科学的推論の結果として出てきた数字が脱文脈的にぶつかり合う「空中戦」になりがちである。古紙リサイクルをめぐる論争を事例にして、こうした「空中戦」では、意見・立場の違いが議論の深まりにつながらないこと、被害者・消費者・生産者のいずれのリアリティからも乖離しがちであることを明らかにした。天下り的に与えられがちな数字に対して、異議申し立てをする余地をいかに確保するのかが重要な課題となる。2013年度には4件のインタビューを実施し、このテーマに関して2件の学会発表を行った。年度内の投稿には間に合わなかったが、現在はそれらをもとにした論文の投稿準備中である。 2.環境問題におけるテクノクラシー的構造に関する理論的検討。専門家主導で政策が決まっていく中で、いかにそれに対する異議申し立ての回路を確保するのか、という視点から検討を進めた。エネルギー問題に関する社会的意思決定プロセスの分析の一環として、原子力発電のリスクについて分析した結果、1)科学研究のもつ多様性が知の流通・利用の局面で不可視化されていくメカニズム、2)その中で批判につながる多様性を確保することの意義、3)「国際的合意」を前面に出して、自らの立場が抱える不確実性に言及しないことがもたらす議論不全、といった点を明らかにできた。2013年度にはこのテーマに関して2件の学会発表を行い、1本の論文を公刊した。
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