研究概要 |
日本国内における貧困問題の閉塞状況を打破するためには,他の社会的課題と組み合わせて雇用創出を図る試みが必要である。本研究は,野宿者が多く生活している大都市近郊において,農地荒廃問題と貧困問題を組み合わせ,アクションリサーチという形で,農地再生事業による雇用創出を試みた。 ひとつの成果として,農業労働の場を創出することの意義が明らかになりつつある。就労希望者は,人間関係を広げ収入を得ることができるのみならず,社会的要請に応えているという自信を得られ,特に若者の場合には,得意なことや苦手なことを発見して就労訓練の次の段階につなげることができた。また,年配の野宿者が,農作業の要領を得ず悩んでいる若者を激励したり指導したりする光景も見られ,高齢野宿者と若者の協働の可能性が垣間見えた。 同時に,さまざまな課題も見えてきた。例えば第一に,基本的に農作業の大部分は暗黙知から成立している。指示内容を全て言語化することは非現実的であり,最初は最小限の指示を出し,作業中に各参加者ができていない点を指摘することになる。どうしても言い方が否定的になるため,中には気分を害したり自信を喪失したりする参加者が出てしまう。第二に,どのような作業が必要か,作物の状況を見ただけで判断できるリーダー的人材が不足しているため,持続可能性に問題がある。農地再生事業に対する農地所有者および就労希望者のニーズが今後一層顕在化する傾向にあることに鑑みれば,一時的な就労の場を提供するにとどまらず,長期的な視点で人材を育成するという方向性も必要である。 結論として,農業分野における就労支援には固有の可能性と課題があり,これらを検証することためには,就労支援というものが何を目的とすべきなのかという根源的な問題を回避できないことが示唆された。
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