本研究の目的は、知的障害者による体験知と技術に基づく自立生活モデルを開発することである。平成26年度は、知的障害者を対象としたインタビューの方法論的考察(古井 2014)を行った上で、自立生活をしている障害当事者5名に対して生活史調査を実施した。この調査の結果及び研究期間全体を通して、本研究の成果を下記に整理する。 知的障害者が自らの体験知や技術を表明するためには、当事者活動でのセルフ・アドボカシーの機会の提供、日常生活において彼/彼女らの「声」を聴き意思を尊重する支援や環境が必要となる。とくに、障害当事者による「自立生活プログラム」の実施に効果がある。自立生活プログラムの分析(古井 2013)及び生活史調査の結果、本研究で導き出された体験知と技術は、障害当事者自身が、失敗体験を伝えられること、自分がしていることと家族や支援者がしていることを意識化することが挙げられた。さらに、生活史調査の内容を、調査者と調査協力者との相互作用の観点から分析したとき、調査者は、限られた時間内で多くの情報を得るため、及び彼/彼女の経験を正確に聞き取るため、一方的に問いただすような場面がみられた。それに対して、協力者は沈黙したり、「ひみつ」と答えたりすることで対応していた。このようなインタビュー場面での対処行動についても、今後十分な検討が必要になるものの、彼/彼女らの体験知や技術であると考えられる。 以上の結果は、知的障害者の自立生活において当事者活動の重要性を改めて示した点に意義がある。また障害当事者による体験知や技術であるため、今後、自立生活を送る障害者にとっても参考になると考えられる点で重要である。
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