昨年度までの調査に加え、定位家族、ケアホームおよび生殖家族で生活する知的障害者にヒアリングを行い、3年間で実施した調査の分析を実施した。その結果、青年期・成人期の知的障害者の離家と家族形成にあたっては、他者によるケアとサポートの必要性、原家族からの離脱、他者との人間関係の広がりや深まりの延長にあるセクシュアリティと結婚の側面から、以下の諸点が課題となることが浮かび上がった。(1)従来の自立論は、障害があるゆえに「自立」を獲得しがたいということに焦点化され、ライフコース視点が欠如しているため、知的障害者が青年期・成人期という世代にふさわしい生活を送るという選択肢を排除することにつながっていた。(2)当事者と親・支援者の自立観には差異があり、とりわけセクシュアリティと結婚に関して顕著であった。親や支援者の自立観は、当事者との相互作用のみならず、知的障害者に与えられる社会的意味を経験するなかから生成されたものであり、実際の極めて限定的な知的障害者のライフコースを構成していることに寄与している。しかし、親・支援者の自立観と当事者の欲求を対峙させても、そこから知的障害者の新たなライフコースの展望を見出すことは困難である。したがって、(3)従来の自立論や親・支援者の自立観を通して当事者の欲求を語ることには限界がある。しかし、とりわけ支援者は、知的障害者の最も身近な他者として、当事者を「大人になりゆく存在」とみなしたうえで、当事者の欲求をくみ取り、代弁する役割を担うべきであろう。今後、新たなライフコースの可能性を切り開くためには、知的障害者の私的な人間関係の充実、さらに社会的なネットワークの必要性について、人々の共通理解を呼び起こし、かつ実践に寄与する枠組みを検討することが重要であろう。
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