本研究の目的は、犯罪加害者家族が置かれている心理的・社会的状況を理解し、彼らに対する支援の必要性と可能性を検討するものである。 研究期間に加害者の親および配偶者を中心に、全16件のインタビューを実施した。これらのインタビューを通して、加害者家族の心理社会的状況を浮き彫りにすることができた。具体的には、加害者本人との続柄の相違による経験の多様性、罪状による家族の経験の相違、家族の居住地域による差異、被害者が家族内にいる場合の心理的負担、支えとなる子どもの存在等である。加害者家族として支援を求める者の多くは女性であり、女性性に付与されている社会的規範からの検討および女性福祉からの支援が有効であることが示唆された。事件を理由に自殺を考えるケースも見られるため、二次被害を生み出さないための配慮が必要となる。 また、本研究では、犯罪加害者家族に対する支援の仕組み作りに向けて、諸外国で犯罪加害者家族支援を行っている民間団体への聞き取り調査を行うことも目的としてあった。香港の民間団体を訪問したが、家族観や犯罪観、制度の相違が家族の経験にもたらす影響が大きく、それらの要因との関連性についてはさらに考察を深める必要がある。 最終年度は、加害者を親にもつ子どもの実態について検討を進めた。児童虐待の有無や母親の養育能力等によっても児童の抱える問題は異なるため、刑事事件手続きや服役の影響のみを限定して考察することは困難であった。事件について知らされていない事例もあり、告知の方法やタイミングについては一定のガイドラインの必要性も示唆された。これまで受刑者の子どもたちが抱える問題については見過ごされており、本研究により児童福祉における新たな視点を提起することができた。このような子どもたちに対するスクール・ソーシャルワーカー等による介入の可能性と、司法・教育・福祉領域の連携の必要性が明らかになった。
|