研究実績の概要 |
研究の最終年度となる当年度は、視覚障害者による聴覚錯誤に関する聴感実験を中心に行った。実験空間としては、昨年度と同様、本学の既存の設備である簡易無響室(無響空間)を使用した。無響室内に8chのスピーカーを被験者の周りを取り囲むように円状に設置し、音源の中心に被験者に座ってもらい実験を行った。スピーカーから音源のスピーカーの距離を約1.9mとして、8chの各スピーカーより、音をランダムに発生させて、発生した音源の方向を手で示してもらう手法で実施した。本年度は簡易無響室における聴感実験について、聴覚錯誤をより明確に解明することを目的として、方向定位への反射壁面の影響に関する基礎的検討を実施した。実験室内に音が反射するような仮設の壁面を設置し、壁面の位置も可変させて評価してもらう実験を行った。被験者から見て前後左右4つの壁面に12パターン(例えば前面のみ、前面及び右側面、前面及び後面、壁面無しなど)の壁面をつくり出し、反射による聴覚錯誤の影響について調べた。音源は昨年度と同様の1,000Hzの正弦波、ホワイトノイズ、そして人の声として女性アナウンス音の3種を使用した。 実験には4名の視覚障害者の被験者に協力してもらった。4名とも身体障害者1級を所持している。被験者の内訳は40~60代の男性1名、女性3名である。実験の条件としては、上記のように壁面位置の可変の他、頭部を固定(動かさない)した条件とどこから音が聞こえているかを自由に頭を動かして良いという条件の2パターンに分けて行った。実験の結果、ホワイトノイズと女性アナウンスを音源に使用した際にはほぼ100%に近い確率で方向定位ができていた。しかし、1,000Hzの音源の際には全ての被験者が方向を誤って示しており、反射壁面の影響に関しても聴覚錯誤が十分に考えられることが明らかとなった。
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