研究課題/領域番号 |
23730536
|
研究機関 | 弘前学院大学 |
研究代表者 |
小川 幸裕 弘前学院大学, 社会福祉学部, 准教授 (90341685)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 独立型社会福祉士 / ビジネスモデル / 非倫理的実践の予防 |
研究概要 |
平成23年度は、独立型社会福祉士の実態を把握から活動課題および倫理的課題の整理を目的にアンケート調査を行った。 調査対象は、「独立型社会福祉士養成研修」を修了し日本社会福祉士会会員名簿にて所属先種別コードが独立型社会福祉士に該当する全独立型社会福祉士693名とした。回収された有効回答は、267(38.5%)であった。アンケートの質問項目は、(1)活動開始年および独立理由、(2)事業属性、(3)経済的基盤の確保方法、(5)活動の課題と対応、(6)非倫理的実践と対応、(7)今後のサポートとした。調査方法は、無記名自記式質問調査を用いた。 調査の結果、年齢は50歳代、60歳代が多く、一定程度の経験を積んだ状態で独立を選択していることが伺えた。また、取得資格については社会福祉士以外に複数の資格を取得しており多様な資格を背景に事業が行われていた。独立理由は、「自由裁量性を発揮するため」が最も多かった。その中でも、「定年退職後に地域貢献を行うため」も一定数おり、独立理由が多様である状況が伺えた。認識されている課題については、「代わりがいない」ことが認識されており、一人で活動することの多様なリスクを感じていることが伺えた。これらの課題の対応については、主に「ネットワークの構築」や「研修会への参加」が行われていたが、「未対応」も多くみられた。また、倫理的葛藤については、「クライエントの意思確認の難しい場合」や「資産が十分でないクライエントから報酬を要求する場合」に葛藤を感じていた。倫理的葛藤への対応については、「日本および都道府県社会福祉士会の研修会や学習会へ参加している」が最も多く、次いで「社会福祉士会以外が開催する研修などへ参加している」が多かった。その他には、「要求に応じて開示できる記録がある」などがみられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、独立型社会福祉士のビジネスモデル構築に向けて、アンケート調査から実態把握と課題の整理を行うことを予定していたが、アンケートの依頼に時間を要し実施時期が遅れたがおおむね計画通りに実施することができた。回収率も予定をしていた40%には届かなかったが約38%であったことから予定とするデータを集めることができた。 アンケート調査からは、(1)世代間によって対価に対する認識にズレが見られること、(2)対価を発生させる課題として相談援助の根拠を明確にできていないこと、(3)個人事務所の形態が多い中で業務を引き継げる者がいないこと、(4)資産が十分でないクライエントへの対応が多い中で対価を発生させる方法が見つけられていないこと、(5)多様な課題を認識しているが具体的なサポートシステムが整備されていないこと、といった課題を抽出することができた。 これらの課題から、独立型社会福祉士が倫理的実践を担保した実践を展開するためには、(1)職能団体を中心としたスーパービジョン等の評価システムの構築、(2)ソーシャルワーク実践の可視化および言語化、(3)成年後見制度や介護保険制度などを活用した事業における報酬の安定化に向けた制度変革、について今後対応が必要であることが伺えた。 これら平成23年度の成果をもとに、平成24年度は訪問調査によるインタビューデータの収集および分析から、これらの課題について具体的な対応を検討するとともに、倫理的実践を担保するビジネスモデルの構築とその環境整備について次年度取り組む予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、平成23年度のアンケート調査の中からソーシャルワーク実践と収益確保のバランスに問題意識を持つ独立型社会福祉士でアンケートにおいてインタビュー調査を承諾した独立型社会福祉士約20名を抽出し質的調査を行う。このインタビューからビジネスモデルを選択する要因とそのリスクを明らかにし、非倫理的実践を予防するシステムを備えたビジネスモデルの構築を行う。 調査方法は、実践地域を訪問し半構造化面接を用いてインタビューを行う。手続きとして、事前に調査目的およびインタビュー内容を提示するとともに、インタビュー対象者の権利や保護等を伝える。またこれらの内容は、インタビュー開始前に再度確認し、インタビュー参加への同意として署名と日付を記入した承諾書を2部作成し、1部を対象者へもう1部を調査者が保管する。 インタビューの内容は、(1)活動理念、(2)実践形態の選択理由、(3)経済的基盤の確保方法、(4)ソーシャルワーク理念と経営のバランス、(5)非倫理的実践の予防、(6)制度外の新たなニーズへの対応、とする。インタビューは1回約3時間とし、インタビューはすべてICレコーダーで録音する。分析方法は、録音したデータをすべて文字に起こし、専門職を対象とした実践への活用が容易であるという利点をもつ修正版グラウンデッド・セオリーアプローチを基に分析を行う。 調査の流れは、(1)4月~10月:調査の実施、(2)9月~10月:データの書き起こし、(3)10月~12月:データの分析、(4)1月~3月:研究の総括、とする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、主にインタビュー調査を行うための各地域への訪問に要する旅費および研究成果の報告を学会や研究会で行う旅費で使用する。1)旅費:訪問調査に係る旅費として約30万円を使用予定である。訪問地域、訪問時期および調査人数は、青森県(8月・4名)、埼玉県(9月・4名)、東京都(7月・5名)、大阪府(10月・4名)、広島県(11月・3名)の6ヶ所20名へのインタビュー調査を予定している。2)旅費:研究成果の口頭発表および報告に係る会場までの旅費として約30万円を使用予定である。主な学会及び研究会は、(1)第20回日本社会福祉士会全国大会(岡山県)、(2)第9回独立型社会福祉士全国実践研究集会(東京都)、(3)日本社会福祉学会第60回大会秋季大会(兵庫県)、(4)富山県社会福祉士会総会基調講演(富山県)、(5)埼玉県独立型社会福祉士委員会研修会(埼玉県)を予定している。3)その他:調査協力者への調査結果の郵送おける切手代・封筒代として約2万円、プリンターインクトナー代として約1万円、紙代として約1万円、備品の購入費として約1万円、報告書の出版に約5万円を使用する予定である。
|