本研究は、全国の中高年者を対象としたパネル調査に基づき、配偶関係の変化と精神的健康の関連を分析することを目的とした。具体的には、第一に配偶関係(有配偶、死別、離別、未婚)による精神的健康の差異に関する横断的分析、第二に追跡期間中における配偶者との死別が精神的健康に及ぼす影響に関する縦断的分析を行った。本年度は、第二の分析課題について、欧米における既存研究の知見を整理するとともに、性差に着目した分析を行った。データは「引退と健康に関するパネル調査(1999年、2003年)」を用いた。精神的健康の指標は、Center for Epidemiologic Studies Depression Scale (CES-D)と生活満足度を用いた。 追跡調査時点(Time2; T2)のCES-D得点を従属変数とした重回帰分析の結果、男性では、有配偶者に比べて死別を経験した者はCES-D得点(T2)が高く、生活満足度得点(T2)が低くなっており、追跡期間中に精神的健康が低下していた。また、死別経験後の期間が短い者、ベースライン時点(Time1; T1)の夫婦関係満足度(T1)が低かった者ほど、CES-D得点(T2)が高くなっていた。一方、女性では、配偶者の死別が精神的健康に及ぼす影響は示されなかった。ただしベースライン時点の夫婦関係満足度(T1)が追跡調査時点のCES-D(T2)と生活満足度(T2)に有意な影響を及ぼしていた。 分析対象となった死別経験者数の限界はあるが、縦断的にみると追跡期間中における配偶者との死別が男性における精神的健康の低下をもたらしていた。また4年間という追跡期間においても、ベースライン時点の夫婦関係の良し悪しが、その後の本人の精神的健康に影響を及ぼすことが示唆された。
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