研究課題/領域番号 |
23730551
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研究機関 | 金城大学 |
研究代表者 |
元村 智明 金城大学, 社会福祉学部, 講師 (60340022)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 公共性 / 共同性 / 経済保護事業 |
研究概要 |
本研究は、近代社会と現代社会の段階的差異に着目しながら地方都市金沢を抱える石川県での社会事業の議論形成とその「公共」的性格を明らかにするためにその具体的展開として経済保護事業の検討を地域社会への設置過程から「共同性」の確保について明らかにするものである。 今年度は経済保護事業の具体的展開としての宿泊救護5ヶ所を含んだ公私営住宅31ヶ所、公設市場9ヶ所、公設浴場22ヶ所、公益質屋14ヶ所、職業紹介23ヶ所の各事業の開設年と開設場所について確認した。なお同時に戦前石川県下の社会福祉関係の施設・団体・機関が367ヶ所開設されたことを確認し、それに占める経済保護事業99ヶ所の割合は27%にのぼることが判明した。なお従来から社会事業の展開については、その周知や拡大について経済保護事業の伸展の問題が指摘されていたが、石川県下でも経済保護事業の占める割合から同様の傾向にあることが明らかとなった。それら全367ヶ所の開設場所については、各施設間の位置関係を石川県下郡部と金沢市内で鳥瞰的に把握できるように図示化作業を行う基礎資料を作成した。 経済保護事業の纏まった史資料がなくその具体的事業の展開を浮き彫りにするために地域新聞である『北國新聞』から各事業の議論や設置の是非、設置経過の記事について収集した。その結果、公私営住宅が先に事業展開され次いで公設市場の設置、そしてその事業の成果次第で他の事業にも経済保護事業が拡げられた傾向が読み取れた。特に、公設市場の設置については地域事情である物価高の問題に加え地方鉄道の抱える問題、国の政策としての影響の問題があることが輻輳的に加わり、北國新聞社主催の生活改善キャンペーンと相まって公設市場の開設に至ることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会事業のなかの経済保護事業は大正期に拡がるが、それは1908年の感化救済事業と翌1909年の地方改良事業の延長の国の政策に起因するものと考えていたが、地域新聞である『北國新聞』の閲覧と関連記事の収集から、日露戦後方針だけでなくさらには民力涵養運動も非常に大きく影響していることが判明した点は、先行研究の渉猟とその研究成果の把握が十分でなかった点である。 加えて、石川県下の経済保護事業の公私営住宅、公設市場、公設浴場、公益質屋、職業紹介に関する纏まった史資料はないことが予想されていたためにその具体的展開と地域社会への影響については地域新聞である『北國新聞』からの史資料の収集を試みたが、当初の予想をはるかに超えた報道があり該当時期には朝刊に加え夕刊や地方版の新聞が公刊された事情もあり調査すべき新聞の量が増えたために1921年1月から1923年12月までの新聞記事の閲覧と収集にしかあたれていない。しかし、そのことで公私営住宅に次いで取り組まれた公設市場開設の成功の是非がその後の事業の伸展に影響することが明らかとなり、石川県下では公設市場の設置問題を経済保護事業の中心課題に据えることが重要であると判断することができた。 なお当初は議会での議論についても史資料の収集と分析を行う予定であったが、『北國新聞』の閲覧と収集に時間を要したために議会議事録については史資料の収集と分析に至っていないがそれについては先行研究で明らかにされている点もあり、むしろ先行研究についての分析状況を新聞報道の側から補強することが可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
経済保護事業については社会事業史研究だけでなく、近代日本史、財政史、経済史、市場史、都市史研究からの分析がありそれらの先行研究の成果の概括と石川県下の経済保護事業の開設年と開設場所の実態解明の報告、経済保護事業のなかでも特に公設市場の設置過程に着眼した議論形成について社会事業史学会第40回大会(於;日本女子大学)において研究成果報告を行い1年間の研究の取り組み内容について総括することになっている。 また所属学会でこれから研究報告を発表申請できる年次大会においても公設市場以外の事業について設置過程を研究報告する予定で準備を進めている。なおそれらの学会口頭発表については、学会誌に論文投稿し研究成果を公表できるように準備を進めている。 なお経済保護事業99ヶ所を含めた戦前石川県下の社会福祉関係の施設・団体・機関367ヶ所については、石川県下郡部と金沢市内の地図を作成しその領域別と開設年代別の図示化資料を編集し、解題とデータ一覧を付した資料集成として公刊予定である。 特に研究の達成度として十分でなかった先行研究の民力涵養運動や関連する歴史分析の研究成果についてさらに収集し、本研究で取り組んでいる社会事業史からの歴史分析による研究課題についての成果をより明確化させる予定である。そのためにも所属学会や所属研究会において研究報告を行いながら、研究の進め方や歴史分析の手法について指導や助言を得る機会を設定していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は千円未満であったため、ほぼ予定通りの研究遂行状況であった。次年度については、物品費のなかでは図書購入を予定し社会事業史研究だけでなく政治史、財政史、経済史、社会政策史、市場史といった周辺領域の研究成果をさらに収集し研究課題の明確を図る予定である。 そして『北國新聞』の閲覧と収集のために石川県立図書館等での史資料の調査を行うための旅費を設定している。なお研究成果については東京や大阪、京都等を中心に開催されている学会や研究会において研究発表を行い、本研究課題に対する研究成果の明確化を図るとともに史資料の解釈や歴史分析の進め方について助言や指導の機会を得ることにしている。 なお新しい史資料が発見された際にその閲覧や利用に加え、北國新聞等の膨大なデータ整理のための謝金・人件費を設定した。 その他の項目については先行研究の論文収集と史資料の文献複写料および送料が必要である。そして史資料やそのデータ、研究成果を保存する記憶媒体の購入、さらには研究成果のひとつの柱となる仮題「戦前石川県下の社会福祉関係施設・団体・機関地図」を作成するための印刷製本費と、それを図書館や大学等の研究機関に発送するため費用を予定している。
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