戦前の石川県における公共性の議論形成と共同性確保には、経済保護事業の拡がりがあることが認められ、なかでも公設市場の設置に関しては行政の関与が大きく関わった点とその経緯を明らかにし社会事業史学会第40回大会において研究報告した。 さらに戦前石川県下の社会福祉に関する施設・機関・団体について、公的史資料から361事業の事業名称、設立年月、所在地、設立主体を把握して大分類として「総合」「地域」「医療」「児童」「高齢者」「女性」「司法」「経済保護」「軍事援護」の9分類に分けたうえで、さらに各事業の性格から27の中分類に整理検討した。その成果は「解題 戦前石川県下の社会福祉関連施設・団体・機関をめぐって」(小冊子全35頁)に纏めた。 特に施設・団体・機関が石川県下のどの地域に開設されたかについては、大分類ならびに中分類毎に地図上に点を付して示しながら、さらには年別に施設・団体・機関の拡がりが鳥瞰的に把握できるようにデータベース化し、今後の利活用を踏まえて「戦前石川県下社会福祉関連施設・団体・機関地図資料集」(DVD版)にデジタルデータとして保存し、他方で出力紙データ『戦前石川県下社会福祉関連施設・団体・機関地図資料集』(全285頁)としても纏めた。 戦前石川県下の現在の社会福祉に繋がる施設・団体・機関は、特に1920年代と1930年代に全体の約8割が開設され、なかでも公立によるものが36.0%、私立が6.1%、その他が57.9%である傾向がみられ、なかでも経済保護事業が31.0%、児童が35.5%の割合を占めており対象者を選別できない事業の拡がりが認められる点が明らかとなった。また石川県郡部の開設51.8%に対して旧金沢市内の開設は48.2%と地域の偏りも見られないなかで、広く多くの人々が利用する事業の拡がりは公共性と共同性を有する性格の事業である点を明らかにした。
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