本研究の目的は、協力関係の形成方略-罰や報酬によって集団的に解決する集団的解決と、他者の信頼性を見きわめる能力を身につけることによって協力的な他者を選別する個人的解決-は、その性質に応じた対人認知能力を促進するという仮説に基づき、対人認知の正確さの体系的検討を行うことにある。最終年度にあたる本年度は、前年度までの研究成果に基づき、対人認知の正確さを、他者との関係性についての認知の正確さ(集団的解決において有効な対人認知)、他者の内的属性についての推測の正確さ(個人的解決において有効な対人認知)に分類し、それぞれの認知の正確さを測定する課題を行わせると同時に、集団的解決および個人的解決への志向性を質問紙によって測定した。具体的には、身近な他者(友人)との関係性(親しさや距離感)を推測する課題、身近な他者または見知らぬ他者の内的属性(性格)を推測させる課題を行った後に、実際にその友人または初対面の相手に対して質問紙を配布し、参加者との関係性、内的属性について回答してもらい、推測と実際の回答を照合することによって、推測の正確さを測定した。その結果、予測と一貫して、集団的解決を用いる傾向と、身近な他者との関係性の推測の正確さの関連がみられた。そこで、個人的解決を用いる傾向について、見知らぬ他者の内的属性について推測させる課題を行わせる実験を実施した。また、対人認知の正確さが状況の手がかりによって変化するかを検討するために、集団的解決への志向性が異なる2つの文化圏において、対人認知の正確さを測定する質問紙調査を実施した。これらの一連の実証研究の結果、対人認知の正確さにおける個人差および状況による差異は、協力関係の形成に際して用いられる方略の違いによって生み出されている可能性が示された。
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