研究課題/領域番号 |
23730576
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹村 幸祐 京都大学, 経営学研究科, 助教 (20595805)
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キーワード | 関係流動性 / 独自性 / ユニークネス / 個人主義 / 社会生態学的アプローチ |
研究概要 |
本研究では、「他者とは異なる」ことを求める独自性追求行動が、周囲の社会環境の特徴によってはむしろ向社会的に機能するとの仮説を提唱する。社会環境の特徴として、特に関係流動性(社会関係の流動性・開放性)に着目する。関係流動性の異なる社会環境の間で、独自性追求行動の及ぼす影響を比較検討し、それを通じて仮説の検証を行う。 平成24年度には、2種類のソーシャルネットワーキングサイト(SNS)―facebookとmixi―を比較するネット調査を実施し、仮説を支持する結果を得た。高関係流動性社会であるアメリカに起源を持つfacebookは、低関係流動性社会である日本に起源を持つmixiに比べて、より関係流動性の高い社会環境だと考えられる。本調査では、この2種類のSNSの両方を利用しているユーザーを対象に調査を行い、各SNSにおいて自己のユニークさを表現しようとする動機(自己表現動機)の強さが、各SNSにおける社会的成功(新たに形成される友人の数)とどのような関係を持つかを検討した。 調査の結果、facebookはmixiに比べて関係流動性の高いことが確認された。さらに、自己表現動機と新規友人数の相関はfacebookでもmixiでも正の方向にあったが、facebookにおいてmixiでよりも有意に強い相関が見られた。以上の結果は仮説を支持し、関係流動性の高い環境(facebook)では、関係流動性の低い環境(mixi)でよりも、自己のユニークさを表現することが向社会的に機能することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定には含まれていなかったSNSに関する調査を実施した。最近の研究で、SNSが環境として個人の行動に影響することが確認されている(Qiu, Lin, & Leung. 2012; Thomson & Ito, 2012)。個人の行動等に対する文化や社会環境の影響を検討する研究では、通常、二国間比較(例えば、日米比較)の手法が用いられる。しかし、こうした手法の場合、調査対象となった二ヶ国の参加者は互いに別人であるため、環境特性の効果と個人特性の効果を切り分けることが困難である。これに対し、SNSの場合、同一個人が2つの異なるSNSを利用することが可能である。上で挙げた先行研究は、こうした複数のSNSを利用しているユーザーを対象とすることで、個人特性の効果を統制した上で環境の効果を示してきた。環境の効果に注目する本研究にとってこの手法を用いる意義は大きいと判断し、当初の予定になかったネット調査を実施することとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には、日本の全都道府県を対象としたネット調査を実施する。そして、個人を第一の分析単位、都道府県を第二の分析単位とするマルチレベル分析を行う。これにより、①都道府県間に関係流動性の差異が存在するか、②都道府県間で、独自性追求行動の持つ影響に差異が存在するか、③関係流動性における都道府県間分散と、独自性追求行動の持つ影響における都道府県間分散が共変するかを検討する。 平成23-24年度の研究では、高関係流動性社会と低関係流動性社会の差異を、都市圏と地方圏の比較(平成23年度調査)、また、facebookとmixiの比較(平成24年度調査)を通じて検討してきた。その結果、仮説と一貫して、独自性を追求し、それを表現することが、高関係流動性社会で低関係流動性社会でよりも向社会的に機能することが示されてきた。しかし、その限界として、いずれの調査も2種類の環境(都市と地方、または、facebookとmixi)のみを対象としており、環境の効果の統計的検討は十分ではなかった。この限界を超えるべく、日本の全47都道府県を対象とした調査を実施し、環境レベルの影響も厳密に統計的に検討することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述の目的のためには、全47都道府県から十分な数の調査参加者を得ることが不可欠である。そこで、残りの研究費の大部分をこの調査に使用し、十分な数のデータを確保する。各都道府県内の参加者数を十分に確保することで、個人レベルの影響と環境レベルの影響を同時に検討することが可能となる。
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