本研究では、「他者と異なる」ことを求める独自性追求が、周囲の社会環境の特徴によっては向社会的に機能するとの仮説を検証した。社会環境の特徴として、関係流動性(社会関係の流動性・開放性)に着目した。これまでの先行研究によって、独自性追求の機能性と社会環境の関連が検討されてきたが、次の2点の限界があった。①環境の影響を、個人特性の影響から完全に切り分けることができていなかった。②本研究の仮説から、独自性を追求する程度に社会間で差が生じることが予測されるが、そうした差異の生じる社会の「単位」が十分に検討されていなかった。本研究では、この2点を主たる検討課題とした。 平成24年度には、①の限界に取り組み、仮説を支持する結果を得た。この調査では、2種類のソーシャルネットワーキングサイト(facebookとmixi)の両方を利用している日本人が調査対象となった。同じ個人の心理・行動傾向が、facebookとmixiで異なる帰結につながるとすれば、それは個人特性の影響ではなく、環境の影響だと推論することができる。調査の結果、facebookはmixiに比べて関係流動性の高いことが確認された。そして、自己のユニークさを表現しようとする動機と新規友人数の正の相関が、mixiよりもfacebookにおいてより強く見られることが明らかにった。 平成25年度には、②の点に取り組む調査を実施した。全国47都道府県の住民を対象としたネット調査を実施し、独自性追求をはじめとして、一般的信頼や自尊心など、関係流動性との関連が既に確認されている心理・行動傾向が測定された。本調査の主眼は、各心理・行動傾向について、都道府県内と都道府県間の分散を調べ、都道府県を単位とした「社会」間で独自性追求などに差が生じているかを検討することにあった。調査データから算出された級内相関係数から、都道府県レベルで生じる分散は小さく、都道府県は適切な「単位」ではないことが示唆された。
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