研究課題
本研究では若者の対人関係についての認知と感情を検討し、心の健康と文化的適応に関連する諸分野への貢献を目指す。さらに、日本本文化の中で中心的に見られる現象だけではなく、一般的傾向とは異なる行動様式や価値基準を持つ若者たちを対象に調査を行うことで、若者の心の変化を検証する。「心の不適応」について、文化・社会と心との相互作用の視点からの検討は数少ない中で、新たな視点からの社会的貢献を目指す。平成24年度には、1)震災前後におけるパネルデータを用いた若者の幸福ならびに不適応状態の変化、ならびに2)ニート・ひきこもりリスク傾向の高い若者の認知と感情についての検討、そして3)怒りや恥などの感情状態への対応における日本とベルギーの文化差、について検討を行った。1)については20代、30代の若者のパネル調査サンプル(第1回は2010年12月、第2回は2011年3月)に対して、2013年2月に調査を実施、幸福感や不適応感、感情状態への対処、ソーシャルサポートの認知などを検証、日本の若者が二極化する傾向についてまとめ、調査結果は2013年5月にドイツで開催される日独社会科学会にて報告するとともに、Journal of Happiness Studiesへの論文としてまとめた。2)については、ニート・ひきこもりリスク傾向が高い群とそうでない群に複数人の顔の表情を見せ、判断させる課題を行った。するとニートひきこもりリスクの高い人たちでは、一人だけが悲しみの表情を浮かべ、周りの人が笑顔である状況で、特に悲しみ表情を呈示す人の悲しみ感情を強く認知するような孤独感への投影が見られることが明らかになった。3)についてはヨーロッパと日本における怒りと恥の意識と対処法略の違いを具体的に検証、結果の一部はPersonality of Social Psychology Bulletin誌に掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究計画では当初、日本における適応と不適応感について、認知・感情的側面からの考察を加えることを目的としていた。こうした中東日本大震災が起こって非常に大きな心理的変化を経験することになり、日本文化を他の文化と比較する横軸だけではなく、日本文化の変化と心の変容、あるいは「変わらないところ」についての理解を深めるような研究を含めるような形で、当初の研究計画を少しずつ拡大していくことになった。また「幸福」という適応・不適応を考える上で非常に重要なキーワードが社会科学全体の中で取り上げられるようになった。そのため、社会心理学だけではなく、経済学、臨床心理学など多用なアプローチをもつ科学者たちとのディスカッションの機会が増え、日本における適応・不適応の基盤についてより具体的に論を進め、実証研究として結実することができた。
最終年度となる平成25年度は、「文化と心」がそれぞれどのように変化していくのか、あるいは変化しないのか、その時間軸要因も視野に入れるため、アーカイブデータでの分析を加えながら、一方で世代差(高校生、大学生、一般成人)を考慮に入れた分析を実施、適応感と発達の関連についても検討を行う。10代の対人関係形成や、何が適応的か、という感覚や価値観は、大学生や一般成人とは異なっている可能性がある。いじめや不登校、ひきこもりなど、様々な問題を抱えがちな10代の適応感、また、社会の中で自己実現を図ろうとしている30代の若者の心を探ることにより、現代日本社会の問題へのアプローチを詳細に検討することが可能になるであろう。また、適応・不適応状態についての幅広い視点を理解するため、国内外の様々な領域の専門家あるいは産業界からの意見を聴取する。具体的には、(1)現代日本における不適応状態の実態と(2)日本社会を巨視的に見た際の、文化的背景と心の問題との関連について検討する。そして、良好な対人的コミュニケーションを支える認知・感情の仕組みについて検討し、文化・社会の中での適応に向けた中・長期的介入アプローチの開発を試み、教育現場や社会集団へのフィードバックを試みる。
大規模調査を実施するための調査実施費用ならびに分析にかかる研究補助者謝金、分析用PCならびにソフトウェアの購入にあてる。さらに研究成果の国内外での学会発表への旅費とする。
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