研究課題/領域番号 |
23730582
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
石井 敬子 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (10344532)
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キーワード | 文化 / 価値 / 文化的産物 / 選好 |
研究概要 |
本研究では、文化的産物として塗り絵に注目し、文化的な価値観の維持に個人がどのように関わっているか、当該の文化的な価値の維持に関連する個人の選好は発達の段階でどう形成されるのか等を探索する。 本年度は、2つの実験を行った。1つは、文化的産物の選好における社会化による影響を調べることを目的としたものであった。カナダ在住のカナダ系アジア人を対象に、昨年度収集した日米の大人の塗り絵を提示し、その選好を調べた。昨年度の成果によれば、人は文化的価値に見合ったものを選好するが、本年度の研究では社会化の影響の1つの指標として、カナダ系アジア人が自身のルーツであるアジア文化に自己を同一化させている程度および現在の社会環境であるカナダ文化に自己を同一化させている程度を測定し、それによる選好への影響を調べた。その結果、カナダ系アジア人の中でもアジア文化に自己を同一化させる傾向が強い人ほど日本の塗り絵を好んだのに対し、カナダ文化に自己を同一化させる傾向が強い人ほどアメリカの塗り絵を好んだ。これは、人の好みは同一化の程度が強い文化で優勢な価値観に対応することを示唆する。もう1つの実験では、文化的価値に見合った選好が発達段階で形成されていく過程において養育者が大きな影響力を与えていることが推測されることから、昨年度収集した日本とカナダの子どもの塗り絵に対してそれらの文化の養育者がどのような反応を示すのかを探索的に調べた。日本とカナダの子どもの塗り絵を提示し、それに対する好みを尋ねたところ、全体的に日本の子どもの塗り絵が好まれる傾向にあったが、特に日本の養育者はカナダの養育者よりもその傾向が顕著であった。このことは、子どもの塗り絵に対しても養育者はその文化的価値に見合ったものを好んでおり、それ故にそうした選好を子どもに伝え、子どもの塗り絵にも大きく影響を与えていることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は概ね予定通りに日本およびカナダで実験をすることができ、予測と一致した結果を見出した。またすでに成果は国内・国外の学会で発表されており、昨年度と今年度の成果を含めた論文は現在投稿中である。このことから本研究は概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
文化的価値に対応した選好の脳内基盤を探索する。そしてこれまでの研究成果を順次国内および海外の学会において発表し、心理学の国際誌に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、塗り絵の選好の判断時の脳活動を調べる実験を2つ行う。1つはfMRIに注目するもの、もう1つは脳波を測定するものである。fMRIに注目した実験は、ヨーロッパ系カナダ人と東アジアで生まれ育ったカナダ在住のアジア人を対象に、トロント大学で行う。脳波を測定する実験では、同様のサンプルに加え、探索的に神戸大学において日本人を対象にして行う。予測としては、自文化において優勢な価値を含むものを生み出し選好することがその文化の中で生きる上で一種の報酬となるのであれば、文化的産物を見ている際の脳活動をfMRIで調べると、自文化の文化的産物に対して、報酬に反応する脳内の部位である線条体が強く賦活するかもしれない。また脳波を測定した場合には、相対的に他文化の(特に優勢な価値が内包された)文化的産物に対する新奇性は高い故にそれに対応した成分であるN200が、一方、自文化の(特に優勢な価値が内包された)文化的産物に対してはそれに対する処理がより動機づけられるためにそれに対応した成分であるP300がそれぞれ強く見られるかもしれない。 以上の研究には、被験者謝金(fMRI: 50名 [25名 × 2グループ]、1名につき3000円; ERP: 75名 [25名 × 3グループ]、1名につき2000円、計300千円)、研究補助者謝金(延べ100時間、1時間につき1000円、計100千円)を必要とする。脳活動の測定にあたっては、トロント大学および神戸大学の既存の設備を利用する予定である。研究成果は順次国内および海外の学会において発表し、平成23, 24年度の成果と合わせて、心理学の国際誌に投稿する。
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