研究課題/領域番号 |
23730586
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研究機関 | 東北福祉大学 |
研究代表者 |
吉田 綾乃 東北福祉大学, 総合福祉学部, 講師 (10367576)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 社会的認知 / ワーキングメモリ / 感情制御 |
研究概要 |
適応的な社会生活を営む上で、感情を制御することの重要性が指摘されている。本研究では、自己のおかれた状況を的確に把握し、自己をモニターしながら目標を遂行するために必要な注意の制御基盤をつかさどるワーキングメモリに焦点をあて、ワーキングメモリキャパシティの個人差が感情制御に及ぼす影響について検討を行った。本年度は調査研究と実験研究を実施した。調査研究の結果、ワーキングメモリキャパシティ高群において、感情制御方略のひとつである認知的再評価を行うことが充実感を高め、抑うつ傾向を低下させる可能性が示された。このような結果は、ワーキングメモリキャパシティが豊富な者が意識的な感情制御方略を用いた場合に、適応が促進されることを示唆している。 また、実験ではワーキングメモリキャパシティの個人差を測定した後、音楽によってネガティブな感情を誘導した。続いて、文章選好課題を実施する前に条件操作を行った。個人作業条件(感情制御の必要性なし)、共同作業条件(感情制御の必要性あり)、統制条件を設定した。ネガティブ感情喚起後の文章選好課題において、ポジティブな文章を選好する傾向を感情制御の指標とした。分析の結果、キャパシティ低群は高群よりも、ネガティブ感情喚起後にネガティブな文章を好む傾向が認められ、気分一致効果が生じることが明らかとなった。このような結果は、自動的な感情ネットワークの活性化がキャパシティ低群において生じやすいことを示していると考えられる。さらに、共同作業条件ではキャパシティの高低による差は認められなかったが、統制条件において、キャパシティ高群が低群よりもポジティブな文章を選好し、感情制御を行うことが示された。これらの結果を踏まえて、ワーキングメモリキャパシティの個人差が感情制御に及ぼす影響について認知的要因と状況要因の観点から考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、感情制御に関わる個人の認知能力としてワーキングメモリキャパシティの個人差を取り上げ、その影響を検討することであった。調査研究によって、ワーキングメモリキャパシティが豊富な者は感情制御方略の中でも、感情の表出抑制よりも認知的再評価を行うことが効果的である可能性が示された。また、実験研究によって、感情制御を行うか否かという目標の活性化にワーキングメモリキャパシティの個人差が影響を及ぼしている可能性が示唆された。ワーキングメモリキャパシティの個人差と感情制御との関連性について一定の知見が得られたことから、おおむね予定通りに研究が推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究によって、ワーキングメモリキャパシティの個人差が感情制御方略の成否および社会的な場面における感情制御目標の活性化に影響を及ぼしていることが明らかとなった。しかしながら、これらの感情制御のメカニズムを支えている認知的な基盤については明確ではない。そこで、今後は、感情制御に関わる自動的過程と統制的過程を視野にいれた検討を進めることとする。また、本年度はワーキングメモリ測定課題を集団で実施した。測定の精度を上げるため、今後はワーキングメモリ測定課題の実施方法の改善を行いたい。また、得られた結果をすみやかに公開していきたいと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度はワーキングメモリキャパシティの個人差と感情制御の関連性について、より詳細な検討を行うことを計画している。研究実施環境および分析環境の整備のために物品費と人件費を使用する。また、研究成果報告ならびに資料収集のためにアメリカ社会心理学会に参加する予定である。
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