選択のオーバーロードとは,選択肢数の増加によって,選択環境の魅力度は増加する一方,選択結果の満足度は低下する現象を意味する。本年度は,現象の生起過程を理解するための二つの研究が行われた。 選択のオーバーロードについては,その存在を疑問視する立場も存在してきた。その原因の一つは,先行研究における満足度の定義が曖昧であった点にあると考えられる。この結果,満足度の測定指標は多様に存在し,指標によっては選択のオーバーロードが安定して観察されていない。そこで研究1ではまず,先行研究を概観し,これまで用いられてきた満足度の指標を3種類(選択の遂行または放棄,選択対象に対する主観的満足度,選択対象に対する印象評定)に大別した。次に,3種類の指標を同一実験内で測定可能なパラダイムを開発し,選択肢数が満足度に与える影響を検討した。実験の結果,用いられた3種類の指標は互いに高い相関を示した。しかしながら,これら3指標はいずれも,選択肢数の増加にともなって満足度もまた増加する傾向を示した。 選択のオーバーロード研究で測定される満足度の指標の中でも,実験参加者が自身の選択結果について主観的に感じている満足度は,特に高い応用可能性を含むものと考えられる。これは,この指標が他と比較して容易に測定できるためだけでなく,将来の消費者行動を直接的に予測可能とするためである。そこで研究2では,選択肢数が多いまたは少ない環境において,選択を繰り返し行った場合,主観的満足度がどのように変化するかを検討した。実験の結果,選択環境に対する魅力度は,選択肢数が少ない環境に比べ,多い環境において高く評価された。一方で,選択結果の主観的満足度においては,選択肢数が多い環境においても,少ない環境と同程度にまで低下した。さらにこの傾向は,選択を繰り返し(最大40回)行なった場合でもほとんど変化しないことが明らかにされた。
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