最終年度は、危険運転致死傷罪の裁判シナリオを用いたWeb調査を実施した。また合わせて、得られた成果を日本交通心理学会、日本社会心理学会にて発表した。 2009年5月より開始された裁判員制度は、過去の判例を一定の基準としながらも、感情に訴えるような検察側の陳述や法廷戦術が、過度に厳しい判断をもたらす可能性は否定できない。一見、犯罪者を厳しく処罰することは、社会正義に照らし合わせても適切と考えられがちであるが、その反面、仕事の解雇といった社会的制裁も増大し、個人の経済基盤を不安定化させる。しかし、本来必要なはずの、こうした視点を踏まえた量刑判断は現状適切に行われているとはいえない。 また、社会心理学的観点からも、近年、裁判員制度に関する研究は徐々に進められてきているが、裁判におけるゲイン・ロス効果の影響は、その俎上にすら載せられていない。Aronson & Linder(1965)による、魅力度評定の実験に端を発するこの効果は、ただ褒めるよりも初めに少し否定的な評価をし、後で好意的な評価をした方が評価が高くなるというものである。例えば、「いい人だね」というよりも「初めはちょっと怖いと思ったけど、話してみるといい人だね」といった方が、相手に魅力を感じる。 こうした枠組みは、あくまで対人評定に関するものであるが、量刑判断に至るまでの、裁判員の心証にまで拡大すれば、弁護側と検察側の情報提示の順番が、判決に影響を及ぼす可能性は否定できない。この点を踏まえ、最終年度はシナリオを再構成し、再度Web調査を実施した。
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