研究課題/領域番号 |
23730595
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
大友 章司 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (80455815)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 環境リスク行動 / 健康リスク行動 / 行動変容 / 節電行動 / 食品摂取行動 / リスク心理学 |
研究概要 |
リスク行動を変容するための環境デザインアプローチの構築に向けた実践的な研究として、本年度はリスク行動の心理的メカニズムを解明するためのさまざま縦断的調査研究を実施した。健康リスク行動では、大学生を対象に高カロリーの食品摂取行動に関する縦断的調査研究により検討した。その結果、環境と連合した状況反応的な動機的プロセスによって行動が生じることが明らかになった。また、状況反応的な動機的プロセスが、従来考えられていたような全般的な行動の自己効力感ではなく、場面特定的な自己効力感によって規定されることが新たに指摘された。本研究成果は2012年のヨーロッパ健康心理学会で発表されることが採択された。 次に、環境リスク行動については、大学生を対象にした節電行動に関する縦断的調査を実施し、意図的動機よりも状況反応的な動機によって行動が強く規定されることが明らかにした。それにより、従来の意図的行動のみを前提とする計画的行動理論よりも予測精度が高い環境リスク行動の2重動機モデルを提唱することができた。この研究成果は2011年にオランダで開催された環境心理学会にて発表した。さらに、2012年の冬季に全国規模の節電行動に関する縦断的調査を実施した。その結果、電力需給の逼迫度の認識の違いによる地域差に加え、心理変数として意図的な節電の動機に加え、場当たり的な状況反応的動機によって行動が規定されることが明らかにした。 以上、一連の研究成果により、リスク行動が個人の意志によって規定されるより個人を取り巻く環境によって規定される可能性が高いことを指摘した。とくに、環境に規定される心理プロセスとして、状況反応的動機が重要な役割を負っていることが縦断的調査による実証的なデータによって解明することができた。したがって、リスク行動の変容には個人の意志だけでなく環境へのアプローチが重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、環境が一種のプライミング刺激として作用してリスク行動を誘発することを認知変数から行動変数を予測する縦断的調査によって明らかにすることを目的とした。まず、健康リスク行動の研究では、より詳細なモデル分析を行い環境と連合した状況反応的動機によって行動が規定されることを明らかにした。さらに、個人が環境に応じて潜在的に行動に対する自己効力感を調整し、その自己効力感の影響により状況反応的動機が規定されることが確認された。後者の成果については、当初の予想を越えて新たな心理作用が存在することが明らかになり、期待以上の成果を加えることができた。 また、環境リスク行動については、モデル分析を目的とした大学生を対象にした節電行動の縦断的調査と、さまざまな社会的影響の変数を加えた全国規模の節電行動の縦断的調査を実施した。一連の研究において、意図的動機に加えて状況反応的な動機が節電行動の重要な説明変数であることを一貫して指摘することができた。そのため、非常に信頼性の高い研究成果を示せた。また、状況反応的な動機を規定するさまざまな社会的影響の変数や認知変数についても明らかにすることができ、次年度以降の研究に発展できる有用な知見を得ることができた。 以上、これらの研究成果は日常的な環境がリスク行動のプライミング刺激として作用することを明らかにするものである。研究結果の一部は、査読付きの環境心理学会やヨーロッパ心理学会などの国際学会で発表されたり発表が採択され、十分な成果として認められているといえる。 よって、一定以上の研究成果が得られ、国際的にも評価を得ていることから「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
健康リスク行動や環境リスク行動において環境が一種のプライミング刺激として作用することが、本年度の研究の動機的プロセスの心理的メカニズムの解明研究によって実証的に明らかになった。次年度は、これらの研究成果を発展させ、日常的な環境場面に存在するリスク行動のプライミング資源にアプローチし行動変容に導くためのフィールド実験を行う。そのため、本年度の予算の一部を次年度の研究予算として使用するため繰り越しを行った。本年度の予備的な研究により家庭の電力消費や行動追跡データなど精度の高いデータの測定には、当初予定したものよりも、特別なデータ追跡システムの構築やサンプル数を増加する必要があることが明らかになった。そのため、本年度の予算の一部を削減し繰り越すことで、次年度のフィールド実験研究の際に十分なデータ測定を実施可能にするための予算の拡充を行った。 また、次年度の研究推進の強化に加えて、本年度の健康リスク行動や環境リスク行動の研究成果をまとめたものは、ヨーロッパリスク学会や健康心理学会などの国際的な学会おいて研究発表が採択されたため、次年度に開催される学会にて口頭発表を行う。さらに、一連の研究成果を国内外の査読雑誌に論文投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では、本年度の研究成果を発展させ、リスク行動の変容に向けたフィールド実験を行う。行動追跡データを測定のためのシステムとして研究補助や調査会社への委託費の予算が必要となる。とくに、この予算ではシステム利用に費用が大幅にかかるため、前年度の繰り越し分を当初予算に上乗せして使用する。また、刺激を作成するための刺激画像のライセンス費や文具費、高度なデータ解析のための統計ソフトのライセンス費も予算として計上する。さらに、本年度の研究成果を日本社会心理学会や日本心理学会などの国内学会、ヨーロッパ健康心理学会などの国際学会で発表を行うため、その旅費が必要となる。また、国際的な査読論文として研究成果をまとめるため、英文校閲の予算としても研究費を使用する。
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