研究課題/領域番号 |
23730595
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
大友 章司 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (80455815)
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キーワード | 環境リスク行動 / 健康リスク行動 / 行動変容 / 食品摂取行動 / 習慣 / リスク心理学 |
研究概要 |
前年度の研究成果を発展させリスク行動の2重動機モデルに基づく環境デザイン・アプローチを構築するためのフィールド研究を実施した。とくに、本年度では、行動コントロールが自己から外的な環境手掛かりに委譲にすることにより、状況反応的な非意図的動機の影響が強化され習慣的行動が生じる心理プロセスの解明に成功した。この研究成果は、従来の先行研究で考えられていた習慣がリスク行動を直接規定する動機的側面をもつのではなく、習慣は行動コントロールと非意図的動機を媒介するプロセスにより間接的に行動を規定するという新たな理論的枠組みの提唱している。さらに、行動抑制プライミングの実験では、行動変容が難しかかった不健康な食品摂取行動の習慣の自動的な行動生起を低減させることに成功した。よって、従来の行動変容アプローチでは困難であった自動的な行動プロセスに対応する新たなアプローチを提言することができた。 また、同様の成果はポスター広告によるプライミング操作をデザインしたフィールド実験でも確認され、電気を浪費する悪習慣の動機的プロセスを変容させることに成功した。このような環境プライミング刺激の実験研究では、先行研究の枠組みでは十分に検討されてこなかった意図的と非意図的の2重動機プロセスを取り巻く行動文脈そのものを変容させ、自発的に行動を変化させる新たな介入方略の理論的枠組みについて多くの示唆をするものである。 以上の研究成果の一部は、2012年のヨーロッパ健康心理学会の口頭発表として採択された。また、2013年に開催されるドイツ環境心理学会においても口頭発表されることが採択されている。さらに、国際誌“Appetite”に査読論文として掲載が決定した(Ohtomo, inpress)。一連の成果により、リスク行動の新たな心理的メカニズムの解明と、意志に依存しない環境デザイン・アプローチの構築に貢献することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はフィールド研究において、23年度の研究成果で解明された動機的プロセスの理論的枠組みを習慣の枠組みに適用し、行動が習慣化することで自己から環境へ行動コントロールが委譲し、動機プロセスの変容が生じることを明らかにすることができた。さらに、習慣による行動コントロールの環境への委譲による動機的プロセスの影響を抑制するフィールド研究を行い、実際のリスク行動の減少させることに成功し、実践的な価値の高い成果を上げることができた。具体的には、ダイエットを喚起させるプライミング刺激の導入より、不健康な食生活の悪習慣の影響を低減できることや、非説得的な広告刺激を導入することで、意図的動機だけなく非意図的動機の行動に対する影響プロセスを変容させることができた。このような成果は、従来の意識的な意志を強化するような変容アプローチとは異なり、習慣そのものの影響を変容させたり、状況反応的な非意図的動機を変容させる新たなアプローチ法を提唱するものである。 以上、一連の研究成果は、個人の意志への介入を前提とする従来型の効果が限定的なアプローチにとは異なり、行動文脈に対してアプローチし、環境から個人の自発的な行動変容に導く環境デザインによる新たな介入方略を提唱する画期的な成果として期待できる。これらの研究成果の一部は、日本心理学会、ヨーロッパ健康心理学会において口頭発表がされ、またドイツ環境心理学会においても口頭発表論文として採択が決定している。さらに、習慣が行動を生じさせるプロセスは行動コントロールが自己から環境に委譲した生じることを2重動機の枠組みで実証的に解明した論文として国際査読誌の“Appetite”に掲載が決定している(Ohtomo, inpress)。 よって、一定以上の研究成果が得られ、学会発表や査読論文において国際的にも評価がされていることから「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
習慣的行動は個人の意識的な意志ではなく個人を取り巻く環境によって規定され、それにより状況反応的な非意図的動機の影響力が強くなることで行動に至る心理プロセスが本年度の研究により明らかにされた。さらに、そのような習慣化による環境の影響を取り除く方略として、行動抑制プライミングが有効であることがフィールド実践研究により解明した。これら一連の環境デザイン・アプローチによる行動変容の有効性を高めるためには、フィールドデータの精度を上げ、実証的研究としての価値を高めるだけでなく、現実の社会場面で適用可能な実践的応用性も備えさせる必要ある。とくに、次年度では環境デザイン刺激として、行動プロンプトを用いる。そのため、予備的な実験を重ねて、より効果的なプロンプト刺激作成や提示方法を検討する必要がある。本年度の研究費の一部を次年度に繰り越すことで、効果的で現実の社会場面で導入可能な環境刺激の作成を重点的に行えるようにする。さらに、フィールド実験に際して、日常場面の行動追跡データ測定の信頼性の精度を向上させる必要となる。サンプル数の増加も含めて、データの精度を向上させるための予算を拡充することで、より妥当性と信頼性の高い研究を実現する。 以上のように研究を推進するため、フィールド研究の刺激作成するための画像ライセンス費や文具費を計上する。また、行動追跡データを測定のためのシステムとして研究補助や調査会社への委託費の予算が必要となる。さらに、次年度は研究計画の最終年度になるため、研究成果の発表やとりまとめについても推進していく。そのため、研究データを解析するための統計ソフトのライセンス費や、日本社会心理学会や日本心理学会などの国内学会や、ヨーロッパリスク学会やドイツ環境心理学会などの国際学会に参加するための旅費、国際的な査読論文として研究成果をまとめるため、英文校閲の予算としても研究費を使用する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では、現実場面のリスク行動の変容に向けたフィールド実験を中心に、理論的妥当性と実践的応用性の観点から総合的に検証する研究を実施するため、実験用の刺激画像のライセンス費や文具費、行動追跡データを測定するめの機材、実験を委託する調査会社の委託費の予算が必要になる。これらの予算についての使用が多くなることが見込まれるため、本年度の繰り越し分を上乗せして計上する。さらに、最終年度として研究成果を取りまとめるため、分析に必要な統計ソフトのライセンス費、日本社会心理学会や日本心理学会の国内学会、ヨーロッパリスク学会やドイツ環境心理学会の国際学会に参加するための旅費を予算として計上する。また、国際的な査読論文として研究成果をまとめるため、英文校閲の予算としても研究費を使用する。
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