研究課題/領域番号 |
23730597
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
真島 理恵 熊本学園大学, 商学部, 講師 (30509162)
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キーワード | 社会的ジレンマ / サンクション / 罰 / 報酬 / 協力 / 社会心理学 |
研究概要 |
本年度は、前年度に明らかにされた公的サンクショニングシステム(以下システム)の新たな機能(個人的に行われた場合にはネガティブな評判を招く罰行動をも正当化し、サンクション従事者にポジティブな評判をもたらす)をふまえ、サンクション従事者が良い評判を獲得し適応的となる鍵が、システムの背後に人々が暗黙に想定する「サンクションは集団成員の合意に基づき成立したものだ」という合意の認知にある可能性に注目し、そのような認知の有無がサンクション従事者が得る評判に与える影響を調べる質問紙実験を実施した。社会的ジレンマでの協力者・非協力者に対するサンクショニングシステムへの従事者・非従事者が登場するシナリオを提示し、両者への印象を評定させた。サンクションの「内容(罰か報酬か)」と「合意の有無(システムが成員の合意に基づき導入されたものか、外部の指示で導入したものか)」を操作した。その結果、「合意に基づき導入されたシステムの下でのみ、サンクション内容に関わらず従事者は良い評判を得る」という予測に反し、サンクション従事者はサンクション内容が罰である場合よりも報酬である場合によりポジティブに評価されるという内容の効果のみが見られ、合意の有無の効果は見られなかった。しかし、回答者の心理特性の影響について詳細な分析を行ったところ、他者への一般的信頼や同調傾向が高い人々はサンクション内容に関わらずサンクション従事者をポジティブに評価する一方で、一般的信頼や同調傾向が低い人々は「合意に基づく内生的システムでの、罰サンクション従事者」をネガティブに評価するパターンを示すことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では平成23年度の探索的調査の結果、サンクションの内容と実行主体という2つの軸から分類されるサンクションのタイプにより、サンクション行動の適応的基盤はそれぞれ異なっている可能性を明らかにした。更にサンクション行動を適応的にする重要な基盤として「内容の如何に関わらず、サンクション行動を正当化し、従事者の評判を高める」という、これまで明らかにされてこなかったサンクショニングシステムの新たな機能が示された。しかし論理的には、システムへの貢献という形をとるサンクション行動も、個人的に行われるサンクション行動と同じく、自らは実行せず集団内の他の成員にただ乗りすることが合理的な、2次の社会的ジレンマ問題を生む行動のはずであり、「システムの導入がサンクション従事者の評判を高める」ことを示したのみでは、サンクション行動がなぜ適応的となり得るのかという問題を解き明かしたとは言えない。そこで平成24年度には、システムのいかなる性質がなぜサンクション行動の適応価を高める機能をもつのかを特定することを焦点とした質問紙実験を行った。その成果として、システムがサンクション従事者の評判促進装置として機能するためには、集団成員が他者に対する一般的信頼・同調という心的特性を備えている必要があることが明らかにされた。この結果は、サンクション行動、及びサンクション従事者を利する評判を形成する心的傾向性は、集団成員の高レベルの一般的信頼・同調という心的特性との共進化によって適応的となるという新たな可能性を示すものである。このように24年度にはサンクション行動の適応的基盤に関するモデルには集団成員が備える信頼・同調というマイクロな特性を組み込む必要があるという、理論モデルを作成する上で非常に重要な事実を新たに発見することに成功しており、計画は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの結果は、その内容と実行主体により、サンクション行動の適応的基盤は異なること、公的なサンクショニングシステムはサンクション従事者の評判を高める機能を持ち、ただし、システムがその機能を果たすためには、集団成員が特定の心的特性を備えている必要があることを明らかにした。 この、特定の心的特性がシステムの実効性を左右するという新たな知見は、サンクションを通じた相互協力達成のモデルを作成するに際し、システムのようなマクロ構造のみならず、成員の心的特性というマイクロな変数を従属変数として投入する必要があるという重要な指摘を投げかけるものである。なぜなら、もし現実にサンクション行動を適応的にする心理・行動傾向はある心的特性と結びつくかたちで存在するのならば、サンクションを通じた社会秩序の自生的成立は、集団内において特定の心的特性と共進化することではじめて実現する可能性が考えられるからである。 そこで25年度はまず、モデルに投入すべきマイクロな特性を特定するとともに、各タイプのサンクション従事者の適応的基盤に関するこれまでの知見を実証的に検討する実験室実験を行う。実験では5~6人の参加者がサンクションを伴う社会的ジレンマに参加し、その後他者の行動履歴を参照して別のゲーム(リーダーの選出、複数の社会的交換ゲームでのパートナー選択と行動決定)での意思決定を行う。社会的ジレンマでのサンクションの内容・実行主体・サンクション導入が内生的になされたか外生的になされたかを条件として操作する。各タイプのサンクション従事者が特定のゲームで利益を得るかを検討するとともに、被験者の心的特性を広範に測定し、後半のゲームでの意思決定がどのような心的特性と結びついているのかを特定する。この実験の結果から明らかとなる、マイクロな特性を組み込み、サンクション行動の適応的基盤を明らかにする理論モデルを作成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
5~6人が同時に参加してサンクションを伴う社会的ジレンマを繰り返し行うコンピュータ実験を実施するため、匿名性を厳密に保持した上で実験を実施するための実験機材(消音ヘッドホンや移動可能なパーテーション、実験者を呼び出すデバイス等)、及び実験プログラム開発用のソフトウェア・マニュアル等を購入する。また理論モデル作成に際してコンピュータ・シミュレーションと数理解析を行うための、プログラム開発用PC1台と、複数のタイプのサンクションを対象とした網羅的なシミュレーションと数理解析を行うための高性能ワークステーションやデータ保存用の大容量ハードディスクや記録メディア等を購入する。(プログラム開発・分析用ソフトウェアやマニュアル等も購入する。) また、本研究の成果を、実験研究の専門家が多数出席する国内学会(社会心理学会、日本人間行動進化学会)、及び国際学会(国際社会的ジレンマ学会、平成25年度はスイスにて開催)で発表するための旅費を支出する。
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