本研究の目的は、特定の他者の不幸を企図する「恨み感情」と、他者の不幸を喜ぶ「シャーデンフロイデ」の喚起メカニズムの解明を目指しつつ、制裁的な理由によって生じる「いじめ」に焦点を当てて、これらの感情がいじめの関与に及ぼす影響を明らかにすることにあった。 今年度は、小中学生に対して、仮想場面におけるいじめ被勧誘時の態度に対する回答を求め、その得点に基づき彼らを類型化した成果を発表した。この類型といじめ被害者に対する感情との関連を検討したところ、回答者がいじめの被害者をあらかじめ恨んでいた場合には、制裁的な理由によるいじめに誘われた際に、加害者を支援するような役割を担う傾向にあった。しかし、被害者を妬んでいた場合には、いじめには積極的に関与せずに傍観者の立場をとりやすいことが明らかにされた。 一方、同じく小中学生を対象とした別の調査では、いじめの被害者に対する妬み感情の質的な違い(良性妬みと悪性妬み)が、いじめ目撃時における感情(シャーデンフロイデと同情)の喚起に及ぼす影響を検討した。悪性妬みが喚起されている状況では、良性妬みもシャーデンフロイデを促進するが、逆に悪性妬みが低い場合には、良性妬みは同情を高める効果が認められた。このように、妬みの違いによって、いじめ目撃時の感情の喚起に果たす役割が異なることが示唆された。また、シャーデンフロイデの喚起メカニズムを探る一助として、大学生を対象に潜在連合テストを用いた実験も実施した。
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