どんなによい教材でも、利用されなければ意味がない。従来の教材研究が「教材のわかりやすさ」を対象としてきたことに対し、申請者は「教材を使ってみようと思うプロセス」、つまり、読解初期の動機づけの向上プロセスを明らかにすることを目指している。最終年度では、(1)読解プロセス全体にわたる視線計測研究結果の公表、(2)注意特性に関する研究のデータ分析、(3)読解初期の10秒程度までにおける読解プロセスの3点について研究を行った。 (1)読解プロセス全体にわたる視線計測研究結果の公表については、昨年度行った研究成果を、信州心理臨床紀要誌において学術論文として刊行した。また、本研究の結果をふまえ、教授・学習過程への視線計測を中心としたビッグデータ利用についてのアイデアを提案し、日本デジタル教科書学会2013年度年次大会において発表した。 (2)注意特性に関する研究のデータ分析については、読解初期4秒までの注意特性検討した昨年度までに取得済みのデータについて分析を行った。その結果、読解初期の少なくとも4秒までの間は、注意特性には変化がないことが示唆された。 (3)読解初期の10秒程度までにおける読解プロセスについては、視線計測を用いて読解初期の認知プロセスを評価した。その結果、読解初期の10秒間の間に、時間が進むにつれて文章を読む比率が高くなること、および、そのプロセスを通して主観的わかりやすさが増加することが明らかになった。 研究期間全体については、上記を含め4実験を実施し、内2件で視線計測を用いた。実験の結果、(a)挿絵の動機づけ効果は読解初期3秒までの間はかわらない、(b)読解初期10秒までの間に徐々に文章を読む比率が高まり、主観的わかりやすさが高まる、(c)読解力が高い個人は読解後半で図を参照する比率が高まる、などの結論を得た。
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