研究実績の概要 |
本研究は,キャリア志向を持つ女性が母親である自分をどのように意味づけ,母親としてどのように発達していくか,「母性愛」信奉傾向(社会文化的通念として存在する伝統的性役割観に基づいた母親役割を信奉し,それに従って育児を実践する傾向)との関連から,縦断的に明らかにしようとしたものであった。その結果,キャリア志向を持つ女性においてもとくに第一子の出産後に,「母性愛」信奉傾向の下位因子である「母親の愛情の神聖視」傾向が高まるということが認められた。出産前はキャリア志向を有し,自分のキャリアに大きな意味を意識し短期間での職場復帰を考える女性たちが,産後は自分の変容の自覚とともに母親としての自分を評価し,それに伴い自分のキャリアを再定義するという心理的な動きを明らかにした。その変容の様相でも,複数のタイプが示唆された。また,乳幼児を持ちフルタイム勤務の女性において,キャリア志向こそが両立にかかわる葛藤や困難を緩和する働きがあるということもわかった。 出産退職にかかわる論考や研究では,職場の雰囲気や福利厚生などの社会的な要因が取りざたされることが多い。ゆえに本研究のように女性たちの心理的な変化を縦断的に捉えた研究は稀少であり意義が高いと思われる。これからの社会で女性たちが仕事と家庭とを家族とともに両立させていくためにも,当事者である女性たちの心理的な様相を明らかにしていく重要性をあらためて見出せたといえよう。
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