幼児期には、2種類の身振り表現の発達的変化が生じている(説明対象を手で代用するBPO表現からパントマイムへ、説明対象を演じる主観的身振りから客観的身振りへ)。本研究の目的は、これらの身振り形態の変化が、いつ頃、どのように生じるのか、また、それらの変化が同時並行的に生じるかどうかを明らかにし、さらに、このような表現に関わる形態・文脈・他者視点の影響を実験的に検証することであった。 最終年度は主に、幼児を対象にした実験の分析によって、身振り形態に関わる空間構成能力と、他者視点の取得によって、身振り表現がどのように異なるかを検討した。その結果、BPO表現からの変化については、空間構成能力によって身振り産出パターンが異なっていた一方で、他者視点取得による身振り表現の差は見いだせなかった。この結果は一部基準を変更して追加分析を行っているが、一部は論文として発表した(3月刊行)。 研究期間全体での検討の結果、幼児期の2種類の身振り表現の変化について、BPO表現からパントマイムへの変化は言語発達を指標とした全般的な認知発達や形態把握に関わる空間構成能力の発達とほぼ連動して生じるのに対し、主観的身振りからの変化はそれよりもやや遅れ、他者視点取得などの社会的要因が関与していることが示唆された。 ただし、これらの変化は一様ではなく、課題や手続きの違いによっても各要因の影響の程度が異なることが示唆された。また、主観的身振りからの変化は、BPO表現からの変化にやや遅れて生じていた。今後は、幼児期以降もあわせて追跡・検討することが重要と考えられる。
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