研究課題/領域番号 |
23730637
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研究機関 | 広島文教女子大学 |
研究代表者 |
新見 直子 広島文教女子大学, 人間科学部, 准教授 (40584280)
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キーワード | キャリア教育 / 就職支援活動 |
研究概要 |
本研究は,大学生のキャリア発達過程の解明及び大学における効果的なキャリア教育・就職支援活動の在り方について理論研究(研究1)と実証研究(研究2と3)をとおして検討することを目的としている。理論研究(研究1)では,平成23年度に引き続いて研究論文を中心に情報の収集と整理を行った。キャリア発達過程の解明が目的の研究2では,2年目の縦断的データを収集し1年目と2年目のデータを比較検討した。その結果,キャリア教育で重視している意識・態度(キャリア意識)得点に上昇傾向はみられたがその変化は顕著なものではなかった。さらに,目的学部・学科に所属しているか非目的学部・学科に所属しているかによって得点変化に違いがみられるかを短期縦断的に検討したところ顕著な違いは認められなかった。また,キャリア意識が就職後に期待される能力等とどの程度関連するのかについて新たな指標(職場適応力)を加えて検討した。その結果,キャリア意識が高い者ほど職場適応力も高い傾向が示された。職場適応力の種類によって学生と職業人との間で重視する側面が異なるか否かも検討したところ,学生は職業人よりも専門的知識や論理性等の多様な能力が職場適応にとって重要と考える傾向にあった。さらに,大学でのキャリア教育・就職支援活動の効果検討(研究3)では,平成23年度の結果を踏まえて実験的講義内容を再構成して実施した。その効果を検討したところ,統計的に顕著な効果は見出されなかったが,実験的講義の前後でキャリア意識得点等にある程度の上昇が確認された。また,就職支援担当部署の協力を得て就職支援ガイダンスの有効性について検討したところ,一定の効果があることが示された。複数の対象集団のデータ収集をしたことで大学生のキャリア発達過程を多角的に捉えることが可能になったとともに,既存の取り組みの効果を確認したことによって今後の取り組みへの示唆が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を構成する三つの研究のうち,理論的研究(研究1)については,平成23年度に引き続き論文を中心に情報を収集し,すでに収集した情報と併せて大学生のキャリア発達プロセスについて検討中である。研究2については,経年比較可能なデータ(非目的学部・学科)が2年分蓄積されており,今後も継続して縦断的データを収集する環境が整っている。また,当初の目的では,非目的学部・学科だけでなく目的学部・学科のデータも継続的に収集し,両学部・学科間でキャリア発達過程に違いがみられるか否かについて検討することを目的としていた。平成23年度では目的学部・学科のデータを収集したが,経年比較可能な形式では収集できていなかった。それに対して,平成24年度は目的学部・学科でも経年比較可能なデータを収集した。その結果,目的学部・学科と非目的学部・学科間のキャリア発達過程の異同について検討が可能となった。さらに,就職後の職場適応にとってキャリア教育で重視している能力・態度等がどの程度関連するのかを検討するために,学生と職業人のデータを収集し分析を行った。その結果,キャリア教育で重視している内容が職場適応にも有効である可能性が示唆され,大学生と職業人の間で職場適応に関連する能力の捉え方が異なることも明らかになった。研究3については,当初の計画より1年遅れではあるが,大学の就職支援担当部署に協力を求めて大学における就職支援について実証的検討を行った。支援の内容には多様なものがあるが,多くの学生を対象とする就職ガイダンスについて調査を実施し,ガイダンス内容が学生の就職活動に効果的であると評価されていることを示した。さらに,平成24年度は平成23年度の実験的講義の検討結果を踏まえ,自己理解と情報収集に焦点をあてた実験的講義を実施し,その効果を検討した。
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今後の研究の推進方策 |
研究1の理論的研究については,今後も継続して研究論文やキャリア教育実践報告等から情報収集を行って内容の精査を行うとともに,すでに収集した実証データの結果も考慮してより大学生の実態に合ったキャリア発達プロセスの構築に努める。研究2のキャリア発達プロセスの検討については,大学生の3年目の縦断的データを収集する予定である。平成23年度から収集しているデータについて横断的検討と縦断的検討を通して大学生のキャリア発達の特徴と集団固有の特徴を検討していく。ところで平成24年度からは,大学生のキャリア発達過程と高校でのキャリア発達過程の比較検討を行うために高校生の縦断データの収集を開始する計画になっていたが,平成24年では高校生のデータを収集することができなかった。そのため,平成25年度において協力校の選出及び調査協力依頼等を行う予定である。大学でのキャリア教育・就職支援活動の効果検討に関する調査(研究3)については,平成24年度において現状の就職支援について調査を行ったが,さらに大学生が求める就職支援等についても検討し,効果的な就職支援の内容や支援を行う時期についても検討していく。実験的講義については,平成23年度と平成24年度の2年間にわたる効果検討の結果からある程度の効果があったと考えられるが,統計的に顕著な効果とはいえないのが現状である。そのため,2年間の講義内容や効果を踏まえて再度実験的講義の内容を検討するとともに,一斉講義だけでなく小グループを対象とした取り組み等も実施するなどして,単独の取り組みの効果だけでなく組合せによる効果等についても検討していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は,研究成果の発表及び資料収集のために出張旅費が必要である。参加・発表予定の学会は,EARLI2013(Munich, Germany, August 27th-31st, 2013)と日本教育心理学会第55回総会(法政大学市ヶ谷キャンパス)(東京都,8月17日―19日)である。さらに,平成25年度の調査実施に関する打ち合わせを行うために数回の国内出張旅費も必要である。出張先として,岡山県岡山市と島根県松江市を予定している。上記の国内外の出張旅費として合計40万円が見込まれる。また,平成25年度の実験的講義及び就職支援活動を推進していくうえで,学生の職業的興味や職業適性をとらえるために一般職業適性検査(進路指導用)やVPI職業興味検査等を購入する予定である。これらの検査は,平成23年度と24年度の実験的講義の中で実施しており,実験的講義の効果を客観的に評価するうえで必要であるとともに,就職支援の基礎的資料となるものであるため,平成25年度も継続して実施する必要がある。これらの検査用紙購入代として10万円が必要と考えられる。さらに,研究2と研究3の調査を実施する際の調査用紙の印刷費及びデータ入力費用として5万円が必要になると予想している。さらに,平成23年度以降実施してきた研究成果を論文化して発表することに伴って英文校閲料3万円が見込まれる。その他,消耗品代(プリンタートナー,文具類)として2万円を見込んでいる。
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