本研究課題は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の一環として,中高年期における知能の加齢変化及び,知能の加齢変化に影響する要因を検討し,知能を高く維持するための方策を明らかにすることを目的とする。 1.具体的内容: (1)解析:前年度までの解析では,知能の加齢変化を明らかにするとともに,知能の加齢変化と開放性,抑うつ,余暇活動,教育歴等の心理社会的要因との関連を検討してきた。最終年度である平成26年度には,①研究の総括に向けて,これまで前提としてきた人生後半期の知能の重要性を改めて検討する解析を行うとともに,②知能と心理社会的要因に関してより深く考察し,今後の研究を展望するために,身体的要因が知能の加齢変化に及ぼす影響に関する解析を行った。その結果,①高齢期の知能の高さは,その後の死亡リスクを低くしたり,人生満足感を高くする効果を有していたことから,高齢になっても知能を維持・向上することは重要であること,②APOE遺伝子ε4は,高齢期の知識力や情報処理速度の低下に影響していたことから,これまでに明らかとなった知能の関連要因が,遺伝的リスクを有していてもなお,知能を維持するために有用かを検討することが重要であること,が示唆された。 (2)研究成果の総括:研究成果を総括した結果,中年期には高教育歴等の人口統計学的側面,高齢期には抑うつや開放性等のより心理的な側面が,知能の加齢変化に影響することが明らかとなった。 (3)研究発表:上記に関する学会発表,本課題の成果に関するシンポジウムでの話題提供を行うとともに,総説をまとめた。 2.意義・重要性:中高年者の知能はサクセスフル・エイジングの重要な資源である。日本国内における知能の加齢変化やその要因に関する実証データはほとんど蓄積されていなかったことから,本課題の社会的・発達心理学的意義は高い。
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