本研究は,自己愛傾向と抑うつにおいて自伝的記憶がどのように機能し,どのような機能不全がみられるかに着目し,1. 自己愛傾向と抑うつとの自伝的記憶の機能における類似点・相違点を明らかにすること,2. 自己愛傾向にみられる自伝的記憶の歪みを同定すると共に,自伝的記憶の自己機能不全という観点からそのメカニズムを検討すること,3. 面接場面において,どのように記憶が語られ,機能しているのか,自己愛との関連から捉えること,以上の3点を目的とした。最終年度である今年度は,これらの中で2.と3.に関する研究を実施することであった。研究実績は以下の通りである。 1) 自己愛傾向にみられる自伝的記憶の特徴に関する質問紙調査の実施: 研究目的2.を明らかにすることを目的とし,成人400名を対象とした質問紙調査を実施した。これまで実施した質問紙調査の結果を踏まえ,特に自伝的記憶の自己機能に着目し,自己機能に関連すると考えられる,想起の視点と,エピソードの主観的時間的距離感について尋ねた。現在分析を行っているところであるが,結果の一部は日本心理学会第79回大会で発表の予定である。また学会発表を行い次第,早い段階で論文執筆を行っていく予定である。 2) 心理臨床面接にみられる自己愛における記憶の歪みについて: 研究目的3.を明らかにすることを目的とし,公表されている事例研究の分析を行うこととした。現在は,自己愛に関する事例研究を収集しているところであり,プロトコルについて今後分析をしていく予定である。今後関連学会で成果を発表する予定である。 以上,今年度は特に自己愛傾向に着目した研究を実施し,現在も分析等継続中であるが,自己愛と自伝的記憶の歪みに関して,新たな知見を得ることができると考えられる。今後も継続してこれらの成果を包括的にまとめ,公表していきたい。
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