本研究の主たる目的は,自己愛と抑うつという心理的障害において,自己についての記憶,すなわち自伝的記憶がどのように働いているのか,もしくは働いていないのか,その機能を明らかにすることであった。結果から,抑うつと評価過敏性の自己愛においては,共に自己の連続性や一貫性を維持するために自伝的記憶が用いられやすいという類似した特徴が認められるが,誇大性自己愛ではこの特徴は認められないことが明らかとなった。さらに,想起の視点の検討から,自己愛的脆弱性が高い場合,自己愛を傷つけるような記憶は距離をとる形で想起されることが示唆された。
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