研究概要 |
様々な精神障害における中核となる症状に、侵入思考(intrusive thoughts)がある(Clark, 2005)。妄想、自動思考、強迫観念、心配など、これらは本人の意志とは無関係に意識の中に繰り返し侵入して通常の認知的活動を著しく妨害し、不安や恐怖などの否定的感情を強く喚起する。侵入思考は健常者群にも発生するが、臨床レベルにまで悪化していく原因として、思考抑制の関与が強く疑われている(Clark, 2005)。思考抑制につながりやすい認知評価次元としては「自我異和性」がある(荒木ら, 2010)が、他の評価次元との関連性を含め、生起しやすい条件についてはほとんど明らかとなっていない。本研究の目的は、(1)自我異和的評価と他の認知評価の関係を整理する、(2)TAFと自我異和的評価の関係を明らかにする、(3)思考の制御困難性が自我異和的評価に及ぼす影響について検討する、(4)思考の新奇性/既知性が自我異和的評価に影響していく過程を調べる、の4点に集約される。平成23年度はこのうち(1)について検討するための質問紙調査を実施する予定であったが、平成23年3月11日に発生した東日本大震災の影響により、本研究が直接の研究対象とする日常的な侵入思考の中に震災関連またはPTSD由来のものが多く混入してしまう可能性が懸念された。PTSDの予後に関しては、症状が軽快するまでに6ヶ月~12ヶ月ほどの期間が必要なことが知られている(Stein et al., 2011)。そのため今年度は最新のデータ収集技法および解析手法を実行するための環境整備に注力し、平成24年度に(1)と(2)の検討を目的とした質問紙調査を行うこととした。
|