研究概要 |
本研究の目的は「非病理的解離」の特性を明らかにすることである。外傷体験などによって引き起こされる病的解離については多くの研究がある一方、非病理的解離に関する研究は極めて少ない。しかし、スクールカウンンセリングなどアウトリーチ型の支援現場においては、非病理的解離の広がりが示唆されており、内省力や共感性の欠如への繋がりが指摘されている(岩宮,2009)。アウトリーチ型の支援活動が、教育や福祉の領域で増加傾向にある昨今の現状を鑑みると、本人に来談意思や問題意識がないクライエントへの支援がますます増える可能性があり、そういったクライエントの特性の一つと考えられる「非病理的解離」について明らかにすることは、今日的課題と言える。 そこで本研究では、非病理的解離の特性を文献研究、質的研究、調査研究という3つの方法によって明らかにした。特に調査研究では、非病理的解離を測定する尺度の作成を行い、その信頼性と妥当性を検討した。その結果、あらゆる事柄に心を動かさない「無関心・無感動」、物事を割り切って捉える「わりきり」、自己と事象を結び付けて内省することのできない「内省のなさ」、不快に思えることはなかったことにしてしまう「切り捨て」、という4つの構成概念からなる全31項目の尺度が作成された。また、非病理的解離尺度の信頼性については、尺度全体でα係数=.733(無関心・無感動;α=.847、わりきり;α=.731、内省のなさ;α=.720、切り捨て;α=.721)となり、内的整合性という観点からは十分な信頼性を備えていることが確認された。また妥当性については、GALEX尺度(後藤,1999)、解離性体験尺度日本語版(田辺・小川,1992)などの既存の尺度との相関を明らかにすることによって検討し、病的解離とは異なる概念であることなどが確認された。再検査法による信頼性の検討が、今後の課題と言える。
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