研究課題/領域番号 |
23730660
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
川部 哲也 大阪府立大学, 人間社会学部, 講師 (70437177)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 心理療法 / 自伝的記憶 |
研究概要 |
臨床場面における、来談者が自伝的記憶を想起し追体験する現象について、認知的側面および主観的側面の二側面から明らかにすることを目的とした調査研究を実施している。当該年度はその一年目にあたり、予備調査、第一調査の実施と分析、および第二調査の実施を行なう計画となっており、計画通りに実施することができた。 予備調査においては、大学生および大学院生20名に質問紙調査を実施し、第一調査で使用する「記憶の想起体験に関する調査票」を作成した。分析の結果、外傷的記憶を想起させる可能性がある項目を削除するなど、調査協力者の心理的負担にならないよう工夫を行なうことができ、有意義な予備調査となった。 第一調査においては、大学生176名(男性64名、女性111名、性別無記入1名;平均年齢19.3歳)に質問紙調査を実施した。分析の結果、1)プルースト現象と既視体験の頻度には弱い正の相関が見られること、2)離人感をしばしば体験する人ほど、プルースト現象の頻度が高いこと、3)離人感の一部が既視体験の頻度に関連することが明らかになった。これらの結果は調査協力者に文書にてフィードバックを行なった。 第二調査においては、大学生12名に面接調査を実施した。2012年6月までの継続実施であるため、結果は未分析であるが、中間報告として日本心理臨床学会での口頭発表を1回行ない、紀要論文1本の執筆を行なった。この調査により、質問紙調査だけでは明らかにならなかった、記憶想起体験の主観的側面について聴取することができている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床心理学の立場による自伝的記憶研究を行なうことにより、これまでは認知科学による枠組みの中で扱われることが多かった自伝的記憶研究に対し、臨床心理学的な視点を提供すること、そしてその視点をもとに、臨床場面における来談者の自伝的記憶想起体験の諸相を明らかにすることが本研究の大きな目的である。 その目的に照らすと、まず本研究は実施計画どおりに予備調査、第一調査の実施と分析を行ない、第二調査を実施できていることから、おおむね順調に進展しているといえる。そして、調査の分析を通して、プルースト現象や既視体験などの記憶に関連する体験が、離人感と関連することを新たに見出した。さらに、面接調査における調査協力者の語りデータからは、「自伝的記憶についての確信度」が記憶に関する体験の頻度に影響を与えていることが示唆されている。例えば、既視体験を体験したことがあると言う人は、自伝的記憶についての確信度が低い一方で、既視体験を体験したことがないと言う人は、自伝的記憶についての確信度が高いという結果が示唆されている。次年度も調査を継続し、既視体験以外の記憶現象についても、この傾向が見られるかどうかを精査する必要があるが、ここにおいて「自伝的記憶についての確信度」という新たな指標が得られたことは今年度の大きい成果であると考えられる。「自伝的記憶についての確信度」という指標は、臨床心理学的な視点として重要であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
現在おおむね順調に進展しているため、次年度も研究実施計画どおりに進展させる予定である。具体的には、第二調査(個別面接調査)を2012年6月まで実施し、同年7月に量的データの統計的分析、8月から9月にかけて質的データの分析を実施する。2012年9月に、第三調査として、個別面接調査を実施し、第一調査と第二調査のフィードバックを行ない、一年間の振り返り面接を実施する。そして、第一調査時と同様の調査票を実施し、調査協力者のコンディションの変化を測定する。その変化の程度と、1年間の体験の変化とが対応しているかを検討する。これらの調査結果をまとめ、成果発表を行なう。具体的には、出版予定の著書の一部として公表することを予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、二年計画の最終年度にあたる。調査終了にあたっての調査協力者への謝礼や、調査結果をまとめるための人件費・謝金が多くかかることになる。また、成果発表および情報収集のための若干の旅費と、成果をまとめるための図書費用として若干の物品費が必要になる。
|