研究概要 |
平成24年度は、Freemanら(2008)らの研究で使用された異常知覚体験を測定するためのCardiff Anomalous Perception Scale(CAPS; Bell, Halligan, Ellis, 2006)や被害観念の測定のためのState Social Paranoia Scale(SSPS; Freeman, Pugh, Green, Valmaggia, Dunn, Garety, 2007)の日本語版を作成し、その信頼性と妥当性を検討することを目的とした。 オリジナルの尺度の作者に了承を得て、CAPSとSSPSを翻訳した。その後、国内の研究者2名によって日本語訳のチェックが行われた。さらに、ネイティブスピーカーによるバックトランスレーションを経て日本語版CAPSと日本語版SSPSを作成し、それぞれの尺度の信頼性と妥当性を検討した。 CAPS日本語版の信頼性と構成概念妥当性を検討するために、健常者用幻聴様体験尺度(AHES)(杉森・浅井・丹野, 2009)を用いて、大学生97名(男性38名、女性59名、平均年齢19.7±1.2歳)を対象に質問紙調査を行った。分析の結果、CAPSのアルファ係数は有無、心的占有度、苦痛度、頻度のすべてにおいて0.9以上であり、十分な信頼性が認められた。AHESとの間には、0.4程度の相関が認められた。 また、SSPS日本語版の信頼性と構成概念妥当性を検討するために、Peters et al. Delusional Inventory(PDI)(Peters, et al., 2008)を用いて、大学生142名(男性77名、女性65名、平均年齢19.8±1.9歳)を対象に質問紙調査を行った。分析の結果、SSPSのアルファ係数は約0.7であり、信頼性が認められた。PDIとの間には、0.5程度の相関が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の2つの研究を進める。 1)平成24年度に作成した尺度を用いて、被害観念群と社交不安群をスクリーニングし、どのような認知バイアスが被害観念群と社交不安群とを弁別するのかについて検討を行う。 被害観念高得点+社交不安低得点群(被害観念群)、被害観念高得点+社交不安低得点群(被害観念・社交不安群)、被害観念低得点+社交不安高得点群(社交不安群)、被害観念低得点+社交不安低得点群(低得点群)の4群(各20名ずつ)を対象に、実験室にて、選択的注意バイアスを検討するために情動語を刺激として用いたストループ課題(Kindermanら, 2003)を実施する。他には帰属バイアスを測定するための尺度であるIPSAQ(Kinderman & Bentall, 1996)やPIT課題(Pragmatic Inference Task; Lyon, Kaney & Bentall,1994)、表情判断課題を実施する。ストループ課題や表情判断課題では、液晶ディスプレイに提示された刺激への反応(正答率や反応潜時)を測定する。 2)異常知覚体験と認知バイアスとの関連の検討 先行研究において、異常知覚体験は認知バイアスと共に将来的な精神病発症に関わる重要な要因であることが指摘されている。これまでの研究では、両者の関係については調べられていない。しかし、認知バイアスが生じる原因として異常知覚体験の存在が関係していることは十分考えられる。そこで、異常知覚体験と認知バイアスとの関連について検討する。大学生約200名を対象に、平成24年度に作成した異常知覚尺度日本語版(CAPS)を実施する。その中から、高得点群と低得点群(各20名ずつ)を対象に、上記1)と同じ認知バイアスを検討し、異常知覚体験と認知バイアスとの関連について検討する。
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