研究課題/領域番号 |
23730665
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
高橋 稔 目白大学, 人間学部, 准教授 (10341231)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | エクスポージャー / 言語 / 応用行動分析 / 回避行動 / 視線解析 |
研究概要 |
エクスポージャーは恐怖や不安に効果的な認知行動療法の技法のひとつである一方で、技法の改良を重ねながら、その効果や効率を高めるために発展を続けている。こうした背景のもと、不安や恐怖を喚起する言語の働きが注目されている。例えば、Tabibnia, Liberman, & Craske(2008)は、エクスポージャーとして脅威刺激を曝す際に、関連する言語を合わせて提示し、その効果を検証している。また、Accepatnce and Commitment Therapy(ACT)の一技法として提案しているWord Repeating Techniqueがある。これは脅威な意味をもった言語だけを取りあげ、この言語に暴露されていく方法である(Masuda et al.,2004;De Young et al.,2010)。 本研究では不安や恐怖刺激を低減する際に、言語提示条件がどのように影響を与えるかについて明らかにすることが目的である。特に、この研究では注意の変化について検討することとした。そのため、非接触型の視線解析に関する装置を用いた。現在15名を対象に嫌悪刺激と好意的な刺激を同時に提示し、主観的な不快さや注意の違いについて検討した。その結果、刺激の種類(言語刺激もしくは画像刺激)に関係なく、脅威刺激には注目をせずむしろ好意的な刺激に対して注目することが明らかになった。すでに、注意バイアスの研究では、脅威刺激に対して瞬時に注意を向け、判断することが知られているが、この実験のように比較的長い時間に脅威刺激にさらされている場合は別の傾向が見られ、注意の独特の特徴があることが予測された。ここまで行った本研究でも被験者数、脅威刺激の数については限定的なものであり、今後も各種学会等へ参加し、研究者との討論と更なる系統的な検討が必要であると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、研究目的に照らし合わせ、まず初年度は非接触型の視線解析に関する装置を準備し、注意の変化を検討することとした。先行研究を調べてみると、臨床心理学や行動療法の分野でこうした視線解析の結果は数件報告されているのみであった。そのため、実験条件の整備を含めて基礎的なデータ収集が必要であると判断した。 次に、予備的に行った初年度の実験では、協力者は30秒間という時間の間脅威刺激にさらされることになったが、言語刺激であっても画像刺激であっても、脅威刺激に対して回避し好意的な刺激を注視する傾向がみられた。この実験結果については、ヨーロッパ認知行動療法学会やアメリカ認知行動療法学会において発表予定である。しかし、一方で視線解析の結果はデータにばらつきが大きく、またデータ収集が不安定な場合もあり、協力者を増やしながら条件の調整が必要であると考えている。 また、ここまでの結果から今後の展開についてもある一定の見通しが得られた。実験刺激として選定した脅威刺激は、比較刺激として用意した好意的な刺激と明らか異なった反応が観察された。そのため、実験刺激の選定方法は今回の基準に従うことが妥当であると考えられた。また行動療法的治療の一つであるエクスポージャーでは、回避した嫌悪刺激に対してある一定の時間、暴露される。しかし、本研究結果から単純に提示したのみでは回避してしまうことが示唆された。そのため研究結果からどのような条件を整えれば、嫌悪刺激に対して比較的長い間注意し、エクスポージャーの効果を高められるかについて検討する必要があると考える。このことから、研究意義についても一定の見通しが立てられた。 なお、実施に当たっては準備も含め作業はほとんど研究者本人が一人で行っており、多大な時間がかかることもわかった。この点からも実験中の補助等が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画及び推進方策は、つぎの通りに考えている。(1)現在の研究を継続する。初年度に実施した研究結果では、30秒程度の比較的長い時間、脅威刺激を提示した場合、非脅威刺激と比較すると特定の傾向を確認した。しかし、データのばらつきが大きく、また記録がされてないデータもあった。そのため現在の予備研究を継続させながら、測定単位の調整等が必要と思われる。そこで実験条件を統制するために実験協力者を増やして、実験を継続する。(2)実験条件を整え、本実験を実施する。(1)の予備研究を終え、実験条件を整えたうえで、脅威刺激である言語や画像の影響を系統的に検討することとする。例えば数百ミリ秒以下の注意を取り上げた先行研究とは異なり、初年度に行った研究結果では、数十秒間という比較的長い時間提示するとむしろ脅威刺激には注目していないことが示唆された。このことから、刺激の提示の方法を画像や単語といった刺激の種類ばかりではなく、提示時間、および比較する刺激との組み合わせを調整する必要がある。また、特性的な不安の高さによる影響を検討し、時間経過による変化の違いを観察する予定である。なお、自由記述からは言語刺激と画像刺激への反応が異なっていることも示唆されており、それぞれの刺激機能の違いをどのように評価するかについても検討する。(3)関連する研究者と交流促進する。また海外発表を積極的に行う。先に示した通り、本研究分野での先行研究が乏しい。海外の文献でも数本程度である。また、国内では障害児を対象にした読字の際の追視の様子を検討したものや、顔の表情の違いと追視の様子を検討したもののみであり、エクスポージャーで取り上げるような臨床心理分野で注目される刺激はほとんど見られない。こうした意味でも、海外発表を中心に積極的に行い、建設的な討論をしていくことを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の補助金の使用計画は次のとおりである。(1)学会参加費用として:すでに本研究についてはヨーロッパ認知行動療法学会(スイス・ジュネーブ、2012年8月)をエントリーし、発表が受理された。また、11月に開催されるアメリカ認知行動療法学会(アメリカ・ナショナルハーバー)へもエントリーを済ませ、受理された。この2回分の海外渡航費用を予定している。(2)研究協力者への謝金として:研究協力をした人に対して、1時間1000円程度の謝金(あるいはプリペイドカード)を支払う。この金額は先行研究を参考にして決めた金額である。1研究で必要な協力者数はおおよそ30名を予定している。(3)実験手続等の刺激作成および実験補助として:実験を実施するに当たり、実験実施や刺激の作成、およびデータ整理などの実験補助が不可欠である。時間当たり支払う代金は目白大学の規定に沿う(大学院生は時給900円程度である)。雇用にあたっては、あらかじめ稟議書を提出し、大学の承認を得るとともに、求人票や勤務票など必要書類を整える。(4)実験刺激提示用機器等:実験刺激を提示したり、結果データを整理するためのパーソナルコンピューター、刺激提示用のアプリケーション、モニター、データバックアップ用ハードディスク等、パソコン周辺機器および消耗品が必要となる。視線解析で保存されるデータは膨大な容量を必要とし、そのためのバックアップシステムが必要となる。また、すでに研究者が所有している生理機器を用いる場合には、そのための消耗品等が必要となる。
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