研究課題/領域番号 |
23730665
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
高橋 稔 目白大学, 人間学部, 准教授 (10341231)
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キーワード | エクスポージャー / 言語 / 応用行動分析 / 回避行動 / 視線解析 / 注意バイアス |
研究概要 |
エクスポージャーは恐怖や不安に効果的な認知行動療法の技法のひとつである一方で、技法の改良を重ね続けている。とくに近年は不安や恐怖を喚起する言語の働きが注目されている。例えば、Tabibniaら(2008)は、エクスポージャーとして脅威刺激を曝す際に、関連する言語を合わせて提示し、その効果を検証した。また、Accepatnce and Commitment Therapy(ACT)の一技法として提案しているWord Repeating Techniqueがある(Masuda et al.,2004;De Young et al.,2010)。本研究では不安や恐怖刺激を低減する際に、言語提示条件がどのように影響を与えるかについて、特に注意の変化について検討する。そのため、非接触型の視線解析に関する装置を用いた。平成24年度は実験を継続し、嫌悪刺激と好意的な刺激を同時に提示し、主観的な不快さや注意の違の観点から、特に時間経過に伴う注意の変化について検討した。アイトラッキング装置による視線追跡の結果として総注視時間と総注視回数を算出したが、両者は相関が低く、それぞれ独立した指標であったことが明らかなになった。また、画像刺激については、特に提示後20-30秒の間に実験刺激に対する注視の違いが現れた。単語刺激の場合、画像刺激のように交互作用がみられたのではなく、注視回数においてのみ情動価における主効果が確認された。すでに、注意バイアスの研究では、脅威刺激に対して瞬時に注意を向け、判断することが知られているが、この実験のように比較的長い時間に脅威刺激にさらされている場合は異なった独特の特徴があると予測される。ただし、被験者数、脅威刺激の数については限定的なものであり、今後も各種学会等へ参加し、研究者との討論と更なる系統的な検討が必要であると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、研究目的に照らし合わせ、初年度は非接触型の視線解析に関する装置を準備し、注意の変化を検討することとした。先行研究を調べてみると、臨床心理学や認知行動療法の分野でこうした視線解析の結果は数件報告されているのみであった。そのため、実験条件の整備を含めて基礎的なデータ収集が必要であると判断した。 次に、初年度の実験では、協力者は30秒間という時間の間脅威刺激にさらされる条件を設定したが、2年目は被験者の数を増やし、この間の時間経過による変化を検討したところ、それぞれ異なった特徴が明らかになった。この実験結果については、世界認知行動療法学会(ペルー・リマ)やアメリカ認知行動療法学会(ナッシュビル)において発表予定である。 また、ここまでの結果から今後の展開についてもある一定の見通しが得られた。実験刺激として選定した脅威刺激は、比較刺激として用意した好意的な刺激と明らか異なった反応が観察された。そのため、実験刺激の選定方法は今回の基準に従うことが妥当であると考えられた。また認知行動療法技法の一つであるエクスポージャーは、嫌悪刺激に対してある一定の時間、回避させずに暴露させることが必要である。しかし、本研究結果から単純に提示したのみでは回避してしまうことが示唆された。そのため研究結果からどのような条件を整えれば、嫌悪刺激に対して比較的長い間注意し、エクスポージャーの効果を高められるかについて今後も検討する必要があると考える。このことから、研究意義についても一定の見通しが立てられた。 なお、実施に当たっては準備も含め作業はほとんど研究者本人が一人で行っており、多大な時間がかかることもわかった。この点からも実験準備やデータの基礎解析等の補助等が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画及び推進方策は、つぎの通りに考えている。 ①平成24年度までの実験結果を踏まえ、脅威刺激である言語や画像の影響をさらに系統的に検討することとする。例えば数百ミリ秒以下の注意を取り上げた先行研究では瞬時に脅威刺激に注意が向くことが示されているが、本研究のように数十秒間という比較的長い時間提示するとむしろ脅威刺激には注目していないことが示唆された。このことから、刺激の提示の方法を画像や単語といった刺激の種類ばかりではなく、提示時間、および比較する刺激との組み合わせを調整する必要がある。また、特性不安の高さによる影響を検討し、時間経過による変化の違いを観察する予定である。なお、平成24年度までの実験では刺激提示順等は事前に用意したスライドを一定の順番に提示した方法であった。そのため、平成25年度ではコンピューターにより刺激の組み合わせや順番をランダムに提示できるような方法を考案中である。これにより、実験中の補助の動員も行いやすくなると考えている。 ②関連する研究者と交流促進する。また海外発表を積極的に行う。先に示した通り、本研究分野での先行研究が乏しい。海外の文献でも数本程度である。また、国内では障害児を対象にした読字の際の追視の様子を検討したものや、顔の表情の違いと追視の様子を検討したもののみであり、エクスポージャーで取り上げるような臨床心理分野で注目される刺激はほとんど見られない。こうした意味でも、海外発表を中心に積極的に行い、建設的な討論をしていくことを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の補助金の使用計画は次のとおりである。 ①学会参加費用として:すでに本研究については世界認知行動療法学会(ペルー・リマ、2013年7月)をエントリーし、すでに発表が受理された。同様に、11月に開催されるアメリカ認知行動療法学会(アメリカ・ナッシュビル)へもエントリーを済ませ、発表が受理された。この2回分の海外渡航費用を予定している。 ②研究協力者への謝金として:研究協力をした人に対して、1時間1000円程度の謝金(あるいはプリペイドカード)を支払う。この金額は先行研究を参考にして決めた金額である。1研究で必要な協力者数はおおよそ30名を予定している。 ③実験手続等の刺激作成および実験補助として:実験を実施するに当たり、実験実施や刺激の作成、およびデータ整理などの実験補助が不可欠である。時間当たり支払う代金は目白大学の規定に沿う(大学院生は時給900円程度である)。雇用にあたっては、あらかじめ稟議書を提出し、大学の承認を得るとともに、求人票や勤務票など必要書類を整える。 ④実験結果整理用機材:データ整理用のデータバックアップ用ハードディスク等、パソコン周辺機器および消耗品が必要となる。視線解析で保存されるデータは膨大な容量を必要とし、そのためのバックアップシステムが必要となる。そのほか、プレゼンテーション用の消耗品等が必要となる。
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