研究概要 |
本研究の目的は,ひとつは高齢者の認知症予防に対するグループ回想法の有効性を実証的に検討することである。もうひとつは回想法による効果例と非効果例の比較などから,どのように過去を回想することが心理的効果を導くのかを検討し,日本の高齢者の回想の特徴と効果的な回想法の実践方法を検討することである。 平成23年度は、海外における回想法との比較検討のパイロットスタディとして質問紙調査から日本における高齢者の回想の特徴を検討した。首都圏で運営される市民講座を受講した60歳以上の中高齢者に対して質問紙調査を依頼し,これに応じた70名(男性25名,女性45名,平均年齢67.7歳,標準偏差4.8歳)を対象に分析を行った。調査には個人内および対人的回想尺度(野村,2009)、肯定的および否定的回想尺度(野村・橋本,2001),そして日本版回想機能尺度(RFS; 瀧川・仲,2010) を使用した。 その結果,個人内回想と対人的回想ともに回想機能尺度と中程度の相関が認められ,これらの尺度の併存的妥当性が認められた。また退屈の軽減や死への準備はネ ガティブな感情と,会話や親密さの維持はポジティブな感情 と関連することが認められた。これらの結果より,特定の機能や目的のために回想を行う程度は個人内および対人的回想の頻度と関連があり,それぞ れの回想機能にともなう感情も異なることが考えられた。 今後はこれらの結果と欧米における同様の質問紙調査の結果を比較し、日本の高齢者における回想の特徴についての検討を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,グループ回想法による認知症予防の有効性を検討するとともに,海外と日本おける回想法の実践の比較を通して、日本の高齢者の回想の特徴と有効な回想法の実践方法を検討することを目的としている。そのため実際の研究は介入研究と質問紙調査に分けられる。 そのうち日本の高齢者を対象とした質問紙調査は実施され、日本の高齢者の回想の特徴が検討された。しかしながら比較対象となる海外の高齢者を対象とする質問紙調査は、当初連携研究者として予定していたスペインのJuan Pedro Serrano教授からの研究協力を得ることが難しく、他の研究者に改めて研究協力を依頼する必要が生じている。 また介入研究についても、適切な対象者集団については慎重に検討する必要があることから、H23年度中に研究を実施することが出来なかった。そのため平成24年度には遅れの見られている介入研究を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、新たな海外の連携研究者を募り,海外における質問紙調査の実施を依頼する予定である。また,介入研究については、適切な対象者の集団を設定した上で少なくとも1グループ以上のグループ回想法を実施し、その効果評価を行う。研究実施時には対象者の承諾のもとで音声記録をとり,次年度に予定する回想内容の質的分析のためのデータを収集する。
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