本研究は、CBTの効果基盤となる注意制御について検討することであった。まず、注意制御機能と症状との関連について検討するために強迫観念症状が高い大学生(強迫観念傾向者)と社交不安症状が高い大学生(社交不安傾向者)において実験を実施した(実験参加者の症状はいずれも準臨床レベル)。具体的には、強迫観念傾向者には汚物(に似せた物)を目前にしている状況を設定し、社交不安傾向者にはスピーチ場面の状況を設定したうえで、各傾向者における対象物への視線注視様式と前頭前野背外側部(DLPFC)の賦活性を測定した。各傾向が低い大学生(健常大学生)と比較した結果、いずれの傾向者においても、脅威対象物(汚物や聴衆者の顔)を注視する時間は短かった。ただし、脅威対象物を見る回数については、健常大学生との差が見られなかった。同様に、DLPFCの賦活性をNIRSを用いて比較した結果、各傾向者とも健常大学生と比較して、コントロール課題(強迫:花瓶を見る/社交不安:人形を見る)よりも賦活性が低いことが示された。次に、これらの傾向者に「注意の再集中法(Situational Attention Refocusing(SAR))」という注意訓練を用いた介入研究を実施した。SARは、脅威対象物を直視しながら、その際の心的イメージ・思考・感情から距離をとる心的態度を獲得する技法である。介入の結果、各傾向者における症状は健常大学生程度にまで軽減した。また、視線注視様式を測定した結果、脅威対象物への注視時間が介入前よりも長くなることが示された。また、DLPFCにおける賦活も介入前よりも高いことが示された。
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