本研究では、社交不安に関する認知処理の偏り、いわゆる認知バイアスを複数同時に計測し、それらが社交不安に与える影響を多面的に検討することを目的としていた。認知バイアスの各指標と社交不安の相互作用を明らかにすることで、認知行動療法の技法によってもたらされる社交不安低減のメカニズムを明らかにすること、ひいてはその効果を増強する方法を考案する資料を集めることを目的としていた。 平成23年度は、研究に用いる実験課題の一つである解釈バイアスを測定する方法の信頼性・妥当性を確認し、平成24年度、25年度は継続的に、1)同一の実験参加者に各認知バイアスを測定する実験の実施、2)高社交不安者を対象とした集団認知行動療法の実施と、その前後での認知バイアスの変化を測定した。 平成26年度は、平成23年度に作成した解釈バイアスの測定方法について指摘された問題点を検討する実験を行った。具体的には、オンラインで見られる解釈バイアス(社交場面のまさにその場で生じている刺激の解釈の偏り)に対して、社交不安と状態不安の両方が影響を与えている可能性が指摘された。その影響を明確にするため、高低社交不安群を、さらに状態不安を高める群と統制群とに分けて解釈バイアスの測定を行った。その結果、本課題で測定される解釈バイアスには、状態不安がより大きな影響を与えていることが明らかとなった。 注意や記憶のバイアスにおいても特性的な特徴だけではなく、その場その場のでの状態的な感情変化も影響を及ぼしていることが指摘されているが、同様の特徴が解釈バイアスにおいても見られることが予想される。今後、特性と状態の両方を統制した上で、バイアスの振舞いを明らかにしてゆく研究が必要である。
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