研究課題/領域番号 |
23730678
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
大澤 香織 甲南大学, 文学部, 講師 (30462790)
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キーワード | トラウマ / トラウマティック・ストレス / 外傷体験の記憶 / 想起 / 介入効果 |
研究概要 |
当該年度では,昨年度に見直した介入プログラムの実施を試みた。一般向けの公開講座やパンフレットの配布等を通じて参加者の募集を行い,研究協力に同意した4名(男性2名,女性2名,年齢32.5±11.7歳)にプログラムを実施した。プログラムは集団または個別形式で1回平均90分,計6~8回実施された。内容は外傷体験の記憶想起に関する心理教育と対処スキル訓練,認知的再構成法で構成された。プログラム終了1・3ヵ月後に,フォローアップも行った。現在,参加者全員が1ヵ月後フォローアップまで終了している。外傷後ストレス障害の症状レベルは全員,中等度から重度の範囲にあったが,介入後には中等度レベルの者(1名)は軽度レベルに,重度レベルにあった者(3名)も全員中等度レベルまで低減した。生活機能は,介入前から障害レベルが低かった1名を除き,全員に改善が認められた。治療への抵抗感も介入後に有意に低減していた。したがって,本プログラムは外傷性ストレスの問題と生活機能の改善,治療への動機づけの向上に寄与する可能性が考えられた。 また,外傷体験想起時の対処方略に関する一般的な認識についても,昨年度より継続して検討を試みた。近畿地方の大学生149名(男性38名,女性111名,年齢19.3±1.3歳)に調査を行った結果,想起時に他者に相談したり,サポートを求める方略が最も有効だと捉えていることが示された。この結果から,研究知見と一般認識の間に不一致があり,正しい情報提供の必要性が考えられた。そこで介入プログラムでの心理教育以外に,38名の一般大学生(年齢23.1±7.9歳)に外傷体験の記憶想起に関する心理教育を試みた。その結果,実施後に想起に対する恐怖感が有意に低減し,想起に対する対処可能感が有意に高まっていた。外傷体験による問題の予防には心理教育が重要となることが示唆され,今後の展開が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度では,昨年度に内容を検討した介入プログラムを実施し,その有効性を示唆するような成果をある程度示すことができたと考えられる。しかし,対象者の数が少なく,プログラムの効果が厳密に検証されたとは言いがたい。参加者募集にはかなりの工夫と時間を要し,当該年度になってようやく所属機関内での連携が可能な状況に至ったため,補助期間の延長を申請し,より厳密な効果検討を継続して試みることとした。よって,研究目的の達成度は当該区分の(3)に該当するものとして評価した。 当該年度までに培ってきた対象者募集の方法や連携システムによって,次年度は対象者の数が増え,プログラムの効果を厳密に検証できることが期待される。これは同時に,外傷体験の記憶に悩まされている人々に対して,より良質なサービスの提供が可能になることを意味する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は当該年度に引き続き,介入プログラムの効果を検討する。当該年度と同様,公開講座の実施や募集用パンフレットの配布の他に,研究代表者の所属機関内での組織と連携しながら,広く参加者の募集を実施する。募集対象は,外傷体験の想起による問題(想起のために積極的な治療を受けられずにいる者も含む。医療機関を受診中の場合は,主治医の許可を得ていることを参加条件とする)や外傷性ストレス反応(外傷後ストレス障害の症状)を主訴とする者とし,参加希望の申込があった後に事前面接を行う。その面接結果から,研究代表者がプログラムへの参加が可能かを検討し,参加の可否を判断する。事前面接で参加可能と判断された対象者を,プログラムを実施する「介入群」とプログラムへの参加を待機する「Waiting List Control群(統制群)」の2群に配置し,両群の比較によって効果を検討できるように試みる。介入後1・3ヵ月にフォローアップを設定し,中長期的効果の検討を行う。なお,プログラムの進行状況を見て,1ヵ月後フォローアップまでの成果をまとめて公表する等の措置を行う。 また,外傷体験想起時の対処方略に対する一般認識に関する調査は次年度も継続し,その成果をまとめて学術雑誌等にて公表する。当該調査の対象は心理学を専攻とする大学生が多かったため,次年度では他専攻の大学生にも調査協力を試みる。調査結果を踏まえ,大学生や一般人を対象に外傷体験の記憶想起に関する心理教育を実施し,予防的効果の検証を試みる。具体的には,参加者募集のための公開講座もしくは研究代表者が担当する講義にて,講義形式(簡単なワークは含まれる)で心理教育を実施する。実施前後に,外傷体験の記憶が想起することに対する恐怖・不安感,および想起した時の対処可能感の程度を測定し,想起によって生じる問題や外傷性ストレスの問題全般の予防に寄与する可能性を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は残余金額を考慮し,介入プログラムおよび調査を円滑に進める上で必要な経費に重点をあてて使用する。まず,研究参加者への謝礼,およびプログラム実施に必要な旅費(研究参加者の交通費)を次年度の研究費から優先的に支出する(これらは「旅費」「人件費・謝礼」として使用する)。また,研究協力者を幅広く募集するために必要な経費として,新聞や広報誌への広告掲載費,募集用パンフレットの配布に必要な郵送代(通信費)も,研究費から優先的に支出する。研究参加者との連絡に必要な通信費(必要書類の郵送代,電話代),介入プログラムで使用する資料や調査用紙の印刷等に必要な消耗品費(プリンターやコピー機のインク代,コピー用紙など)を研究費から支出する。加えて,得られた研究データの処理・解析の補助作業を,研究代表者が所属する機関の大学生・大学院生等に依頼し,その謝礼を研究費より支出する。 可能であれば,研究成果を学会誌に投稿する, あるいは冊子等にまとめて効果的に広報するために,研究成果発表費用を研究費から支出したいと考えている。また,研究成果を公表するために,学会等に参加・発表する旅費・会議費を次年度の研究費から支出したいと考えているが,残余金額から上記項目の支出を優先とし,研究費からの支出が不可能な場合は私費での対応等を検討する。上記の優先項目についても,研究費からの支出が困難となった場合,同様の対応を検討する。
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