研究課題
自己運動時には感覚入力は時々刻々と変化する。それにもかかわらず,我々は周囲の環境を安定的にとらえ,適切な働きかけを行うことができる。この知覚の背後には自己運動情報を巧みに利用した情報処理の仕組みがあると考えられる。本研究では,前庭情報と視覚的自己運動情報が自己運動時の聴覚空間形成において果たす役割を,自己運動情報や聴覚刺激の提示位置を系統的に操作し,その際の音源定位行動を測定することによって明らかにすることを目的とする。本年度は,前年度に引き続き,視覚による自己直線運動情報が聴覚空間形成に及ぼす影響を調べた。特に,加速度および速度の影響を明らかにするための実験を行った。実験では放射状のオプティカルフローを大型スクリーンに投影することによって自己運動感覚を惹起させた。聴覚刺激は,シミュレートした自己運動方向に沿って11カ所に並べられたスピーカから提示した。実験1では加速度の影響を検討した。視覚運動刺激は最初に等速運動刺激(0.4m/s)として提示し,被験者が自己運動感覚を報告した後に等加速度運動(0.15m/s/s,0.3m/s/s)に切り替え,速度が1.5m/sに達した瞬間に,聴覚刺激を任意の位置から提示し,聴取者に定位させた。その結果,後進運動時にのみ加速度に比例して進行方向側のより遠くの音を真横と知覚することがわかった。実験2では加速度刺激の代わりに等速度刺激を用いて,前庭による自己運動情報と視覚による自己運動情報の齟齬が少ない状況で実験を行った(等速運動時には前庭系は作用しないため)。その結果,この状況でも,後進条件でのみ真横に感じられる音の位置が後方にシフトすることが示された。一般に,自己運動情報として視覚情報しか与えられない場合には,前進よりも後進の方が知覚されやすいと報告されている。したがって,こうした視覚情報による自己運動知覚の非対称性が,音知覚の非対称を生じさせていると考えられる。
すべて 2013
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基礎心理学研究
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http://ci.nii.ac.jp/naid/110009685444
日本バーチャルリアリティ学会研究報告
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