本研究課題では,人間の基本的な知覚機能である時空間の知覚に焦点を当て,時間と空間の知覚に及ぼす逆行性要因の影響を心理物理学的手法を用いて調べ,そのメカニズムを解明することを目的として実験研究を行ってきた。年度の前半では,平成25年度の後半に発見した,高次な認知活動における逆行性要因の影響に関する実験研究を行った。さらに,刺激の出現だけでなく,消失においても逆行性要因によって空間の知覚が歪むことを確かめた。実験の結果,視覚刺激の消失によって観察者の注意を操作したとき,たとえ物理的な変化が無くても特定の位置に注意が向けられることにより,視覚空間が歪められることが明らかになった。さらに,最終的な手がかり刺激の配置は同じであるにも関わらず,試行開始時の手がかり刺激の数の違いによって視覚空間の歪みが異なった。これらの結果は,視覚空間の歪みが手がかり刺激の位置に向けられた注意によって引き起こされることを示している。 年度の後半では,これまでの研究成果をまとめ,学術会議および研究会の招待講演等で発表した。本研究課題で取り上げる,「逆行性要因による空間知覚の歪み現象」は,非常に単純な状況下において見られることから,日常生活においても頻繁に生起していると考えられる。さらに,我々の知覚が時間を遡って歪められる現象を解明することは,人間の知覚メカニズムの時間的側面を明らかにすることができると考えられる。これらの研究成果をもとに,平成26年度は学会発表を3回,招待講演を3回行った。
|