研究課題/領域番号 |
23730695
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
稲上 誠 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 特任助教 (40597803)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 日本庭園 / 感性評価 / 空間構成 / バーチャルリアリティ |
研究概要 |
23年度の研究実績としては、日本庭園の現地調査を行ったことが挙げられる。京都にある11カ所の寺院において、合計18の庭園を調査した。調査の内容は、写真撮影と空間計測である。まず最初に、庭園に面した縁側の中心から、周囲全方向の環境を撮影した。魚眼レンズを用いて周囲を撮影し、その写真を専用のソフトウェアで繋ぎ合わせることにより、前後左右360°のパノラマ画像を作成した。次に、庭園の空間計測を行った。縁側の中心に三次元レーザースキャナーを設置し、周囲全方向の空間構成を計測した。この作業については、レーザー計測を専門としている測量業者に依頼した。 今回の庭園調査で得られた成果は、以下の二点において意義があるといえる。第一に、作成したパノラマ画像をバーチャルリアリティ装置で呈示することにより、庭園の環境をリアルに再現することができるという点である。今回の調査対象のような有名な日本庭園では、現地で実験を行うことが事実上不可能である。今回の成果は、この問題点を解決し、今後の庭園研究および感性研究の可能性を広げるものである。第二の意義として、伝統的な庭園についての重要な資料であるという点が挙げられる。庭園の調査を行うためには、それぞれの寺院から特別な許可を得る必要がある。そのため、庭園の空間構成のデータは図面くらいしか存在しない。今回の計測では、レーザースキャナーを用いることにより、三次元的な空間構成を詳細に計測した。このデータは、庭園の現状の記録として貴重な資料であるといえる。 さらに、23年度には、空間計測データを分析することにより、人間の空間知覚(距離や傾きの知覚)の特性について検討した。この研究成果は、これから行う感性評価に関する研究の基礎的段階として位置づけられる。この研究により、視覚の基礎的特性を理解するとともに、空間計測データの分析方法の確立を進めることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、レーザー距離計と電動雲台を組み合わせて、空間計測装置を自作する予定であった。しかし、購入を予定していたレーザー距離計を実際に試してみたところ、性能が不十分であることが分かった。具体的な問題点としては、計測可能距離が短いこと、環境の表面の状態によって計測エラーが生じることなどが挙げられる。市販されている三次元レーザースキャナーは、十分な性能であるが高価であり、今回の予算では購入することができなかった。そこで、三次元レーザースキャナーを所有している測量業者に作業を依頼することにした。各メーカーの機器の性能を比較した結果、ライカ社のものが今回の庭園調査に適していることが分かった。この機器を所有している適当な業者を選定し、打ち合わせを重ねる必要があったため、庭園の調査を実施するのが遅れてしまった。 また、庭園調査の許可を得るのにも、予定していた以上に時間を要した。庭園の写真撮影および空間計測は、観光客がいない状態で行う必要があった。そのため、それぞれの寺院から特別な許可を得て、基本的に拝観時間外に作業をおこなった。京都にある枯山水庭園から研究対象に適したものを選定し、下見を行った上で、書面にて調査の許可を申請した。幸いなことに11の寺院から許可が得られ、合計18カ所の庭園を調査することができた。さらに、測量業者の都合を考慮して調査計画を立てる必要があったため、作業を実施するのに時間が掛かった。
|
今後の研究の推進方策 |
23年度に予定していた実験1を翌年度に実施することにしたため、その分の研究費を繰り越すことになった。当初の研究計画では、23年度と24年度に一回ずつの庭園調査と実験を行う予定であった。しかし、庭園調査をまとめて先に行い、それから二回の実験をまとめて行うことにした。上述のように、必要な庭園調査は既に完了している。したがって、24年度には主に実験を行っていく予定である。まず、感性評価実験に用いるバーチャルリアリティ装置を用意する必要がある。この点については、他の研究室の没入型スクリーンを使用するために、既に交渉を進めているところである。装置の用意ができ次第、予備実験を経て本実験を行う予定である。実験1では、庭園の空間構成の違いにより感性評価が変化することを検証し、実験2では、空間構成と感性評価の相関関係をより詳細に調べる。これらの実験を同時に行うことにより、被験者を集める手間が省けるだけでなく、実験に要する時間も節約することができる。また、実験を実施すると同時に、庭園の空間構成の分析を進める。空間計測で得られたデータを用いて、庭園の空間構成を定量的に表現することをこころみる。最終的には、感性評価実験の結果を空間構成との関連から分析し、本研究の成果とする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
上述のように、24年度の主な作業としては、感性評価実験を行うことが挙げられる。そのために必要な費用として、被験者に支払う謝金が必要となる。また、実験で呈示する刺激画像を作成するために、パソコンと画像処理ソフトを購入する予定である。さらに、本研究は日本の伝統的文化に関係しているので、得られた成果を国際的に発表したいと考えている。そのため、国際学会に参加するための旅費や、国際的な論文誌に投稿するための英文校正費も必要になる。
|