平成23年度には、感性評価実験を行う準備として、日本庭園の現地調査を行った。京都の18の枯山水庭園を選定し、3Dレーザースキャナーによる空間構成の実測およびパノラマ写真の撮影を行った。また、ヘッドマウントディスプレイを用いた実験装置を作製し、庭園の周囲全方向の環境を呈示できるようにした。 平成24年度には、計画していた2つの実験を行った。実験1では、龍安寺の石庭を対象とし、画像を加工した場合の感性評価への影響を調べた。具体的には、方丈の庇の形状(環境の包囲の度合い)および庭石の配置を変化させ、オリジナルの画像の評価と比較した。しかし、被験者の評価に有為な差はみられなかった。実験2では、18の庭園を対象とし、感性評価と空間構成との関係を調べた。分析の結果、総合的な評価(「美しさ」「面白さ」「落ち着き」の平均値)と環境の包囲の度合い(周囲の環境までの距離の平均の逆数)との間に、有意な正の相関がみられた。この結果は、「周囲の環境による包囲が、庭園の魅力の創出に寄与している」という本研究の仮説を支持している。 今回の実験によって得られた成果は、日本の伝統的文化の理解のためにも、また、人間の感性の解明のためにも有意義であるといえる。枯山水の庭園については、庭石の配置のような要素的なデザインだけが注目されてきた。しかし、本研究によって“環境”という新しい視点の重要性が示唆された。この成果は、平成25年度に開催される人間-環境学会および知覚と行為の国際会議で発表する予定である。 また、本研究に関連する課題として、環境知覚の基礎的な特性を調べる実験も並行して行った。特に、距離や傾きの知覚を対象として、環境の計測結果との関連を分析することにより、視覚システムが環境に適応していることを示唆する結果が得られた。
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